劇場公開日 2016年7月30日

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「名作風の佳作」めぐりあう日 kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0名作風の佳作

2016年9月2日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

寝られる

自分のルーツを辿りたいという思いは、人間の根源的な欲求なんだとしみじみ感じました。
エリザは生まれてすぐに捨てられるという、存在全否定みたいな体験をしているわけですから、
「生みの親に会いたい!でも会いたくない!」的ハードコアな葛藤を抱えており、それはもう切迫するよな、って感じです。
アネットも罪悪感や家族の価値観に屈服して自分の人生を生きてこなかったどんより感満載で、乳児期の母子別離の重さがじっくり描かれているなぁと思いました。
ラストにやっと出てくる晴天は、心のハードワークをやり遂げて成長した2人の心象風景を暗喩しており、美しいです。

しかし、全体的に監督の思いが強すぎるせいか、作品が少し昇華しきれていないようにも感じました。エリザとアネットの関係、アネットの苦悩以外の表現が雑に思えます。エリザ夫婦関係のぎこちなさも根拠が見えづらく、監督はこの問題には関心ないんだろうなぁなんて想像させます。映画と監督の間に適度な距離が取りきれてきないように見える。抑制的な表現が反動形成的に思えてならない。結果的に「早期に母に捨てられてこんなに苦しいのよ!」という気持ちを押しつけられているような…そりゃそうだけどさ。
エンディングの詩の朗読などは好例で、さほど映画とリンクしているようには思えず、わずかですが独り善がりの匂いがしました。

とても繊細で人間の本質に迫る良き映画だとは思いますが、公開規模の小ささは宜なるかな、って感じです。

kkmx