トランボ ハリウッドに最も嫌われた男のレビュー・感想・評価
全99件中、41~60件目を表示
トランボさん、これもあなたが書いたの?!
「ローマの休日」という作品が、もし存在しなかったら、映画の歴史は書き換わったに違いない。
オードリー・ヘップバーンは、グレゴリー・ペックとローマの街をスクーターで駆け抜けていただろうか?
二人のラブストーリーをスクリーンで観る。その感動と楽しみを、僕たちは永遠に失ったかもしれない。その危険は十分にあった。
なぜなら、この脚本を実際に書いたのは「ダルトン・トランボ」という共産主義者だったからだ。
脚本は公開当時、別人の名前が使われた。
やがてオードリー・ヘップバーンは、この作品でアカデミー賞に輝き「世界の恋人」とまで賞賛される大スターとなる。
しかし、彼女を受賞に導いた、当の脚本家の名前は永く秘密にされたのだ。
お話は、1950年代のアメリカ。
いわゆるマッカーシズム、赤狩りが始まったころ。
すでに脚本家として成功を収めていたトランボ。
彼も赤狩りの標的にされてしまった。
その迫害は家族にまで及ぶ。
難を逃れるため、自宅を売却し、移り住んだ先でも「アカ」への偏見、いやがらせは厳しい。
議会に証人喚問され、証言を拒否すると「議会侮辱罪」に問われる。
ハリウッドの第一線で活躍していた、著名な脚本家は、共産主義者というだけで、その活動の場を奪われ、監獄送りとなる。
監獄に入るシーンは印象的だ。
素っ裸で尻の穴まで看守に「検閲」されるのである。
これが、つい60年前まで、本当にアメリカで行われていた実態なのだ。
ただ、このシーンで一つの救いは、トランボを罪人に仕立て上げた人物も、のちに脱税で告発され、ちゃんと監獄送りになる、という点である。
悪い事をしたやつには容赦しない。
どんな地位と名誉を持った人物でもブタ箱に放り込む。
そういう「正義」を実現しようとする姿勢がアメリカにはある。
ちなみにアメリカという「国家」は「自由」と「正義」を旗印に掲げたとき、それ以上の価値観が存在しない、ある種の「全体主義国家」になると僕は見ている。
これは極めて注目すべき特性である。
「自由と正義」は「人の命より重い」ことを容認するのである。
結果として、それがどれほどの人命を奪おうとも、アメリカは何度でも間違いを繰り返す。歴史を見る限り、アメリカはそういう国家である、と僕は思う。
本作を観る前、予告編では、ずいぶん、テンポよく進むストーリーなのかな、と思っていたが、意外にも重厚で、緻密な構成を持つ作品に仕上がっている。
この辺りは監督の演出のさじ加減なのだろう。
共産党員たちを目の敵にする、コラムニストの意地悪おばさん役にヘレン・ミレン。
アカデミー賞女優として、深みと味わいのある、惚れ惚れするほどの「悪役」の演技をみせている。
主人公トランボを演じたブライアン・クランストンのウィットに富んだ演技スタイル、その人物造形は見事だ。
ときに気難しくなる脚本家を支える、奥さん役のダイアン・レインがこれまたいいなぁ~。
トランボは一人で闘っていたのではなかった。
迫害への痛みに耐え、なんとか仕事を廻そうとする脚本家仲間たち。
そしてなにより、トランボには愛すべき家族がいた。
仕事中毒とも言えるトランボと、年頃の娘との、ぎくしゃくしたやりとりも、映画の中では微笑ましいエピソードに思える。
なお、アクの強い映画製作者、フランク・キングを演じるのがジョン・グッドマン。
このキャスティングは絶妙!
デンゼル・ワシントン主演の「フライト」でも、クスリの密売人を実に怪しく演じきった。
映画製作者フランクにとって、何より大事なのは、ずばり「金儲け」なのだ。
仕事ができる環境を求めていたトランボと脚本家仲間たち。
超一流の脚本家が、いまなら破格の安値で雇える!
お互いの利害が合致し、フランクとトランボたちは、こっそり手を結ぶ。
「アカの連中」が書いた脚本でも、映画がヒットして銭がバカスカ儲かりゃ「それでOK」と開き直るフランク。
「アメリカの理想を守るための映画同盟」(いかにも、うっとおしい名前ですな)は、「アカたち」を弾圧するのが三度の飯より大好き。
情報網を駆使して、彼らが活動しそうなところを見つけ出してゆく。
強欲の映画製作者、フランクの元にも捜査の手が伸びる。
「彼ら”アカたち”と取引すると、あなたの会社もどうなるか知りませんよ」と脅しをかける。
しかし、脅した相手が悪かった。
金儲けのためなら人殺しでも構わない、というぐらい肝っ玉の据わった人物に、挑発をかけてしまったのだ。
「てめぇ~、誰に向かってモノを言ってる! 舐めんじゃねぇ~!」
このフランクの怒りに暴れ狂うシーンは、むしろ本作において痛快である。
観ているこっちも「赤狩り同盟、ざまあみろ」という心境になる。
本作はかつて、自由と正義を守る国を標榜する、アメリカという国家が、映画界や映画人たちに、どのような迫害を加えてきたかを明らかにする。
もちろんご承知のように、チャップリンでさえ、赤狩りの対象となり、石を投げつけられるように、国外追放されてしまった。
アメリカという不思議な国家の振る舞いや、その闇の部分については、もっと掘り下げ、問題提起することもできるだろう。
本作では、その辺り、映画の終盤、ソフトランディングさせているような印象を受ける。
ただ、自身の名前を伏せてまで、映画脚本を書き続けた、ダルトン・トランボという人物がいたこと。その事実と生き様を知るだけでも本作を観る価値はある。
トランボの脚本家としての桁外れの才能と、映画への熱情に改めて脱帽せざるをえない。
実話って本当に面白い。 ローマの休日のアカデミー賞受賞の裏で起こっ...
牡牛
ダイアンレインの涙にナミダ。
観てよかった
ブラックリストの時代…思想に名前が与えられ、思想に細かな違いがあれどその名前で悪、正義が決められてしまう時代。正義に反する「悪」は映画界で名前、顔が奪われてしまう時代。息苦しく、悲しい時代。
その時代の中で、それぞれがそれぞれの方法で立ち向かっていく。それは、自分にとっては正義を守る方法であっても、他人から見ればエゴであったり偽善であったり。
本当に息苦しい。
トランボの最後のスピーチはそれらを終わらせる、心のこもったものだった。
「ブラックリストの時代において、英雄も悪役もいない。全員が被害者だ。」
これはトランボにしか言えない言葉だし、なにかがスッと解けた気がした。
見終わって気持ちのいい映画だったなあ。
なにより家族が強い。クレオの表情に、言葉に、夫へのそして家族への愛を感じた。女はどの時代も強いね笑
名前を取り戻した脚本家
スカッ!!!
ヘイルシーザーを合わせて鑑賞
時代の闇を余すことなく表現
胸のすくような
名作の裏に隠された真実はエンターテイメントとしてだけでなく、伝える...
映画を超えた映画!
健全さ
偽名で脚本を書き続ける事で、赤狩りのブラックリストを有名無実化する。
追放から12年。支える家族。その明晰さとユーモアを忘れない姿勢に胸が熱くなった。
辛い状況にあっても。
「名前がどうだろうと主義がどうだろうと、面白いものは売れるんだ、評価されるんだ」という、
ショービズ界の健全さ、経済の健全さ、アメリカの健全さを、誰よりも信じてたのはトランボだったような気がする。
—
赤狩りに立ち向かうテレビマンの実話を描いた『グッドナイト&グッドラック』という映画があった。エド・マーローがテレビで赤狩り批判をしたのが1954年。そこから「赤狩りってやっぱおかしよね」と風向きが徐々に変わりはじめる。
トランボが実名で脚本を発表出来たのは、更にその6年後の1960年。長い年月がかかったなあと思う。
—
この映画の中で印象的だったのは、トランボに嫌がらせをする隣人。
当たり前のことだけど、政治家だけでなく世論…一般の人も、マッカーシズムを支えてたんだなあと思う。
世論に同調する隣人は、60年代になって潮目が変わると、嫌がらせもしなくなる。
我こそが世論と自負してトランボ側をガンガン叩いていたジャーナリスト、ヘッダ・ホッパー。
彼女が完全な潮の変わり目(新しい大統領がトランボ作品を誉める)を目の当たりにするシーンが一番印象深かった。
追:コーエン『ヘイル、シーザー!』にもトランボ&ヘッダ・ホッパーが出てくるけれども、そちらはだいぶ捻っている。本作見てから『へイル〜』見る方が、分かりやすいのではないかと思う。
前振りなのかな?
●心から尊敬する男のはなし。
ダルトン・トランボが好きだ。その不屈の戦いたるや。彼の作品にはそのまま彼の生き様が投影されている。そうかと思うと、「ローマの休日」終盤にある秘密の共有は、たぶん彼のメッセージ。
とまあ、作品に脚本家の本音がみられて粋なのだ。本作みてから彼の作品たちを観ると、絶対楽しいと思う。
さて本作はそんな彼の半生。当時のハリウッドの様相も知れて興味深い。
「真昼の決闘」が嫌いなタカ派のジョン・ウェイン。立場よりも女を選んだロナルド・レーガン。ネットもない時代に絶大な影響力を誇ったヘッダ・ホッパーの筆致。
怖いもの知らずの「スパルタガス」カーク・ダグラスに、「栄光への脱出」オットー・ブレミンジャー。
時代の本流は完全に反共だ。本作には出てこないけど、ウォルト・ディズニーも本流だ。「エデンの東」エリア・カザンは転んじゃう。チャップリンは最終的にアメリカを追放されている。赤狩りが時代の要請だったことは想像に難くない。
そうして干されてからも、トランボは書いて書いて書きまくった。時にはユーモラスに。決して折れることなく。そんな彼を無口な妻が支える。時代を受け入れる心の広さ。ラストの肉声には泣かされる。の前のケネディもイカしてる。
にしても、彼の映画化は遅すぎる。と思ってたら、アメリカで本作は、当時の社会主義のあり方を検証してないだろうと、保守派から叩かれたらしい。それほど難しい問題なのだろう。
ノンキなのは承知だけど、さまざまな考え方を受け入れられる世の中であってほしいもんだと切に願う。
全99件中、41~60件目を表示