「過去を変えられるか?」ザ・フラッシュ ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
過去を変えられるか?
基本的に本作はフラッシュのバックグラウンドを一から描いて見せているので、初見の人でも入り込みやすいように上手く作られている。この手のユニバース系は一見さんお断りみたいな作品が多い中、今回はそのあたりは余り心配しなくても良いような気がする。
もちろん 他のDCEU作品や旧作の「スーパーマン」や「バットマン」の映画を観ていれば、色々なオマージュが見つかるので更に楽しめると思う。しかし、基本的には本作単体でも十分に楽しめるだろう。
物語はフラッシュことバリーが両親の悲劇を回避するために奔走する…というタイムリープ物となっている。ただ、それだけだとドラマのスケール感やアクション的な見せ場が足りないということで、バットマンやスーバーガールといった客演を迎えて賑々しく展開されている。
個人的には、中盤のスーパーガールのクダリがやや退屈してしまったのが残念である。フラッシュが過去を変えたことで、この世界では様々な変化が起きている。その一つがスーパーマンがスーパーガールになっているということなのだが、そうであればもう少し彼女の活躍場面は欲しい気がした。せっかくの新キャラなのに、クライマックスの対ゾッド将軍のためだけに用意されたみたいな扱いで味気ない。
バットマンも元の世界とは別人になっているが、こちらにはそれなりにドラマが用意されていたのでまだ良かったが、スーパーガールに関してはもう少しフィーチャーしてあげて欲しかった。
また、このあたりはシナリオの構成的にも難ありと感じた。スーパーガールを探すエピソード、それ自体は良いとしても、その間のゾッド将軍の動向が全く放置されてしまっている。そのため余り危機感が盛り上がらないままクライマックスの最終決戦に突入してしまった印象を持った。
他にも幾つか不満はあって、例えばフラッシュが助けられなかった少年の父親のエピソードはてっきり伏線が回収されるのかと思いきやそのままだったし、雷の衝撃によるパワーの復活は流石に強引な気もする。何よりラストに大きなサプライズが用意されているのだが、これが今後どういう風に繋がるのかと悶々とさせられてしまった。観終わって今一つスッキリしない部分が多く、脚本の練り込み不足という感じがした。
ただ、こうした不満点はあるものの、本作はタイムパラドックス物として大変面白く作られている。過去を書き換えられるか否か?という命題にシビアな回答を下しており、そこに感銘を受けた。
個人的には「バタフライ・エフェクト」を連想した。あちらを立てればこちらが立たず…という因果律が大変切ない映画だったが、それがここでもバリーを悩ませる。その葛藤に泣かされた。
そして、スーパーヒーローが戦うのは圧倒的な巨悪ばかりではない…という解釈も新鮮だった。時にそれは自分自身の中にある弱い心だったりする場合もある。この物語はそれを”映像的”に具現化して見せた所が非常に上手いと思った。
また、別世界に行ったバリーがもう一人の自分と出会う一連のクダリは、かなりコメディライクに料理されていてとても面白く観れた。髪型から性格、境遇まで異なる二人のバリーは、最初はそりが合わないのだが、やがて共に戦う相棒になっていく。ある種凸凹コンビのバディムービーのような楽しさが感じられた。
そんな二人のバリーを演じたエズラ・ミラーの巧演も見事である。プライベートでは色々と騒動を起こしてしまったが、ぜひキャリアを大切にしてほしいものである。現実は映画のように過去に戻ってやり直すことはできないのだから…。
他に、カメオ出演含め豪華なキャスト陣が大いに見応えあった。