「ドイツよ、私は帰ってきた!」帰ってきたヒトラー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ドイツよ、私は帰ってきた!
これ、どっちの視点で見るかで面白さも違ってくると思う。即ち、
A:ヒトラーそっくりの男。TVマンにスカウトされ、モノマネ芸人としてブレイク。が、男は過去からタイムスリップしてきた本物のヒトラーだった…!
B:ヒトラーが過去からタイムスリップ。激変したドイツにカルチャーショック…。周囲はモノマネ芸人と思うが、本人はスタンスを変えず、やがてそれは話題と注目が拡がり…。
作品の概要説明ではAが見られるが、内容的にはBなので、B視点で語っていこうと思う。
ドイツよ、一体どうした…!?
国民は誇りを失い、党や政治は腑抜けになり、TVは低俗な番組ばかり。
ならば、私が直接一人一人の声を聞こう。ドイツを再び偉大な国にする為に。題して、
“ヒトラーさんが行く!皆さんの声を聞かせて”
このシーン、実際にドイツ各地を周り、リアルドキュメンタリー。
にしてもドイツも、自国の歴史の大罪人を題材にあれやこれや、シリアスだったりユニークだったり作るもんだ。
感心…。日本だったら…?
もしヒトラーが現代に現れたら…?
シュールにただ笑えるコメディかと思ったら…。
TV局をクビになったザヴァツキは、このヒトラーそっくりのモノマネ芸人を足掛かりに、復職しようと自主製作で番組を。
それが反響を呼び、人気番組に出演。政治や人種などタブーを過激な笑いネタにしたトーク番組。
野心家の副局長はこれで局長の失脚を期待するが、カリスマ性ある“モノマネ芸人”のトーク力は予想に反して大反響。副局長や番組MCは完全KO、SNS上では大盛り上がり。
ナンセンスなコメディのように思えるが、よくよく見れば、世間はまた知らず知らずの内にヒトラーに煽動されていく。
一見茶化して騒いでるように思えるが、それとかつてと何の違いがあると言うよう。
かつてもそうだった事だろう。国民はいつの間にか、この一人の男に陶酔していく。
副局長の策略で、ドキュメンタリー番組中の不祥事が暴露され、番組をクビ。TVからも追放。
が、現代にやって来てからの自伝本を書くや否や、またまた大反響。映画化まで。
皆、何かをこの男に望んでいる。かつてと何が違う…?
人類の歴史上最悪の大罪人のヒトラーだが、一人の人間としては非常に頭が良かったと思う。
でなければ国を動かす独裁者にはなれないし、国民の人心も掴めない。
代名詞とも言える演説。平和ボケした国民やバカなTV局クルーや腑抜けた党員たちに喝!
コンピュータやインターネットやウィキペディアなるものを知り学び、現代に適応。
何だかここら辺、妙にリアルだった。本当にヒトラーが現代に現れたら、今のやり方や手法でのし上がっていくだろう。
かつて世や人々を掴んだのだから、やわになった現代など容易いだろう。
今の我々はヒトラーや歴史について知っている。また過ちを犯したりしない、と言い切りたい所だが…、
そう固定観念に縛られていると、いとも簡単に手中に嵌まる。特殊詐欺に騙されるのと同じ。
また国民を煽動するのか…?
国民がそれを望んだのだ。
これは劇中劇の台詞だが、本当の言葉だ。
忘れた頃に人は同じ過ちを繰り返す。
本物のヒトラーと気付いたザヴァツキ。精神異常と病院送りへ。
危険に気付いた者は異分子扱い。皆は揃いも揃って祭り上げる。
笑っていいのか、笑えぬのか。恐ろしい超ブラック・コメディだった…!