「驚きの名作」シネマ歌舞伎 歌舞伎NEXT 阿弖流為(アテルイ) sannemusaさんの映画レビュー(感想・評価)
驚きの名作
なんとなしに観に行ったのだけど、めちゃくちゃ良かった。
大和朝廷が東北の蝦夷を討伐する
征服と抵抗と戦争の物語。
太古の時代から何度も繰り返され、今もなお続く人間対人間の争い。
長編で、かつストーリーもめちゃくちゃ練られてて、構成も素晴らしい。
いのうえひでのりの力量に恐れ入った。
もちろん歌舞伎役者たちの演技はさすが。
染五郎の美しさ、勘九郎の無邪気な明るさと力強さ。
最初の娘役の七之助は無理があるかなって思ったけど、、可憐なすずかと神と三役の演じわけにはドキッとした。
神のシーンは鳥肌ものだった。
歌舞伎ならではのゆったりした台詞回しや顔の演技、表情の余韻までが見応え抜群。
映画やドラマでは、CGとかSFX使って映像を豪華にするけど
本作についてはほぼ歌舞伎の表現方法しか使ってない。でもそのシンプルな表現方法がとてつもなく効果的だった。
アラハバキの神の神聖さ、恐ろしさ、激しい決闘シーン、
シネマ歌舞伎のよさが存分に出てる作品だと思う。
見栄を切るシーンもたくさん出てくる。
内輪ネタ、歌舞伎ネタも挟んでて笑える。
ストーリーもよく出来てて、というかそれも歌舞伎ならではなのかも。
人間の醜さや、高潔さ、情、権力、いろんな要素が絡み合っててんこ盛りで、それはそれはドラマチックな物語でした。
時代がどう動くか。
阿弖流為は故郷を守ろうとするが、捨てるものもある。土着の神を殺す阿弖流為。守るべきは歴史や誇りや文化よりもそこに住む民の平和な生活だ、と。
抵抗することで戦いは長引く。自分こそが戦争の根源になっているのではと悩む阿弖流為。
朝廷にも大義はある。海外の強国の侵攻を退けるためにはこの国はひとつになる必要がある、と。まるで今の日本政府やかつての大戦時の政府を表現するような。
卑怯な手も使いながら、無垢なるものたちを数で征服してゆく日本政府。蝦夷は人ではないと言い切る。
どちらが正しいのか、よかったのか、私にはわからない。勝ったものが持する義が、正義となる。
帝の実体は膝を打つ感じ。
決着の付け方もけしてハッピーエンドではない。
坂之上田村麻呂の蝦夷征伐後の歴史を、今の日本を我々は既に知っている。
かつて征服に抵抗した蝦夷は、アイヌは、うちなんちゅは、彼らの歴史や生活は、何処に行ってしまったのか。どのように残ってるのか。
グローバリズムやダイバーシティについて深く考えさせられる話でした。