「この世界で生きる。」ルーム ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
この世界で生きる。
このタイトルには何かあるなと思っていたけど、やはり二重の意味が
あったことを後半で理解する。誘拐・監禁され7年間の生活をしてきた
「部屋」と希望を胸に脱出してきた世界の「部屋」。ニュースで監禁事件
が解決し被害者が無事保護されたとの一報には安堵の空気が流れるが、
果たしてそれで終わるはずがないという後の世界をリアルに描き出す。
母親や親族にとっては辛く思い出したくない過去であっても、息子に
とっては母親と二人だけで過ごした濃密な7年間の過去。監禁犯の男を
いずれ知ることになる未来、自分の出自を呪う事もあるに違いないが、
しかし彼には教えられた世界と傍にいる母親の笑顔が総てなのである。
なんて健気な息子だと子供の視点で描かれる親子の確執の層に涙する。
個人的に実父が娘が産んだ子供を直視できない場面が印象に残ったが、
今作には耐え難い問題が数多く描かれる。そのどれもがいつ自分にも
降りかかるか分からない恐ろしさを備えていることから目が離せない。
被害者はこんな風に事件後を生きているのかもしれないということに、
どうかそっとしておいて下さい。の言葉を胸に命じなければならない
と思った。身内と比べて部外者になる義父が苦しむ妻や義娘と距離を
置きながら義孫を連れ歩く姿は優しく救いになる。いつかあの部屋で
過ごした日々の想い出とトラウマから解放されて幸福になれるように。
特異な環境での難演を見事にこなした二人には心から拍手を贈りたい。
(子供時代の7年間には想い出がいっぱい。子供の心はどこまでも純粋)
コメントする