劇場公開日 2016年10月15日

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何者 : インタビュー

2016年10月21日更新
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佐藤健×有村架純、俳優として寄せ合う絶妙な信頼感

就職活動につきものの「自己分析」と「自己アピール」だが、せっかく佐藤健と有村架純が顔を揃えたこの機会に、“自己”ではなくお互いを分析し、魅力をアピールしてもらおう……と思いきや、その申し出に佐藤は「いっぱいあり過ぎて、ちょっと時間が足りなくなりそうですね…」と思案顔。有村は「ちょっと(笑)!」と困ったように微笑む。このちょっとしたやり取りだけで、映画「何者」において、なんとも微妙、いや、絶妙な距離感の若者を演じた2人が互いを俳優として深く信頼し合っていることが伝わってくる。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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映画化もされ話題を呼んだ「桐島、部活やめるってよ」などで知られる人気作家・朝井リョウの直木賞受賞作を、劇団「ポツドール」主宰で近年、「愛の渦」など映画監督としても注目を浴びる三浦大輔が映画化。若者たちが未知なる“就活”を通じて己を知ると共に、心の内に秘めた嫉妬や葛藤などを露呈させていく姿を描く。

佐藤、有村に加え、菅田将暉、二階堂ふみ、岡田将生ら人気実力派の若手をメインキャストに迎えたが、クランクインを前に、この多忙な俳優陣が顔を揃えて、2日間にわたってリハーサルが行われた。ここで脚本に書かれた全シーンが最初から最後まで行われたという。佐藤は「リハーサルで、全シーンをやるというのは初めての経験だった」と明かし、この2日間の意義についてこう語る。

「キャラクターを探り、監督と話し合いながら固めていく時間になりましたが、俳優にとってはありがたい時間でした。普段、現場に入ってから直前にリハーサルというのはありますが、一度、撮り始めてしまったら、当然、途中で(固めたキャラクターを)変えることはできない。やはり調整は必要だし、ここでいろいろ試すことができたのは大きかったと思います」。

特に本作は5人の若者たちが、それぞれのスタンスで就活に向き合っていくさまが描かれており、キャラクターの違い、互いの関係性が重要になってくる。有村も佐藤の言葉にうなずく。

「それぞれが考え、作ってきたキャラクターを持ち寄り、それに対して監督が『こうしてみて』と指示を出して、それに沿ってまた変えていくというやり方で、あまり自分で『これ!』と決めつけずに、このリハーサル、本番を通じて話し合いながら作り上げていくことができたと思います」。

佐藤が演じた拓人は“冷静分析系”男子。同居する親友の天真爛漫な自然体の光太郎(菅田)とは正反対のキャラクターであるゆえに馬が合とも言える。佐藤はこの拓人を通じて、映画を見る観客の“主観”を背負うこと――拓人のスコープを通じて物語が展開していくという構図を強く意識したという。

「映画を見るお客さんが拓人に便乗することが理想でした。周囲の人間の性格や行動に対し、お客さんが感じることを拓人が代弁すること。拓人のキャラクター云々よりも、お客さんが便乗できる土台になることを意識しました。お客さんを乗せたその“船”が最後、どうなるのかがこの物語の面白さだと思います」。

一方、有村演じる瑞月は、光太郎の元カノでしっかり者の“地道素直系”と称される女子。有村は瑞月をどのように捉え、体現したのか?

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「私に中で、瑞月は自分自身に矢印が向いている女の子なのかなって感じていました。家庭の事情があったり、やりたいことができない悔しさを抱えつつ、自分の気持ちに向き合い、“内側”に入っていくようなイメージ。元カレの光太郎をいまでも好きだけど、一方でその親友の拓人に対しても真っ直ぐな気持ちを持っている。それは、ちょっと間違えると、両方に対していい顔をしているように見えてしまうので、難しかったですね。拓人を包み込むような“何か”が必要で、それが表現できているのか…? いまだに心配ではあるんですが(苦笑)」。

就活、そして太陽のような光太郎という存在を軸に置きつつ、深い信頼で結ばれた2人。ただし、拓人の方は、大学入学時からずっと、ほのかな想いを抱いていており、しかし! 持ち前の冷静さもあって、それをおくびにも出さず…。そんな距離感の2人が、互いに向き合い、己の内面を期せずしてさらけ出すシーンがラスト近くにある。実はこのシーン、原作には存在しない、三浦監督がオリジナルで書き加えたやりとりである。佐藤はこのシーンに、それ以前とのシーンとは明らかに異なるアプローチで臨んだという。

「監督に言われたのは、ここでの瑞月とのやり取りが、拓人が変わるきっかけになるということ。『拓人がいままで見せることのなかったみっともない姿を見せたい』という意図で、監督があえて作ったシーン。それを理解した上で、拓人ならどうするか? ここに関しては、先ほどお話したような、観客を通しての拓人のあり方というのを意識せず、純粋に拓人として、内面から出てくる感情のまま、演じました」。

有村にとっては瑞月として、拓人のこれまで親友の光太郎にさえも見せることのなかった激しい感情と向き合うシーン。ここで、拓人に放つあるひと言のために、幾度もテイクを重ねることになったという。

「拓人の感情を受け止めて、そのセリフを言うんですけど、何度も何度もやりました。難しかったですね…。変に気持ちを込め過ぎてもダメで、監督は『真っ直ぐに』と言うんですけど、それが難しい(苦笑)!」

10代でこの世界に入り、若くして実力を認められてきた佐藤と有村。当然、就職活動を経験したことはないわけだが、そんな2人も、この映画の中の物語を生きる若者たちのように、己が“何者”であるかを考え、悶え苦しんだり、カッコ悪い自分自身と向き合ったりした経験はあるのだろうか? 佐藤は「拓人の気持ちはよくわかりますよ」と少し照れくさそうな笑みを浮かべ、続ける。

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「みっともない自分を隠したい気持ちはわかりますよ。そういうカッコ悪い自分を受け入れる瞬間もあるけど…でもやっぱり、こと仕事に関しては、意地というか、頑張りたいんですよね。『カッコつけたい』というよりは『しっかりとしていたい』。そこは、キチンとした自分でありたいし、その努力をしたいなと思います。ただ、僕自身、自分が何者であるか? と考えたことは、実はあまりなくて。それこそ、この原作小説を読んだときにそのことに気づきました。そこで考えたのは、やっぱり『自分が何者であるか?』ではなく『何をしているのか?』『何がしたいのか?』が大事なんだということ。その結果が、自分がどういう人間であるかってことなんじゃないかと思います」。

有村は「デビュー当時、『まず自分のことを知らなきゃダメだよ』と言われた」というが…。

「そこから考えるようにはなったんですけど、いまになって思うのは、自分が何者であるかなんて、わかんなくていいのかもしれないなということ。『自分はこういう人間です』なんて、自分で言い切れるってのも変な話ですし(笑)、それは人との出会いや時間と共に変わっていくものですよね。私もカッコ悪いところはいっぱいありますよ(苦笑)。自分の嫌いなところ、コンプレックス、それを隠したい気持ち――少しずつ受け入れているつもりなんですが…(苦笑)。そういう自分を少しは見せていけるようになっているのかな? とも思います」。

では最後に、冒頭の“宿題”を。まずは有村から。佐藤を分析し、その魅力をアピールしてもらおう。
「そうですね…(笑)。拓人のように、冷静に、ちょっと他人とは違うものを見ているところはありますね。一緒に話をしてて『そんな考えがあるんだ!』と教えられ、勉強させていただくことが多いです。仕事に対しては常に真摯に向き合い、役のこと、作品のことを常に考えていて、プロ意識が高いなと思います」。

そんな有村の言葉に、冷静さを保ちつつ、なんとも面はゆそうな佐藤。そんな彼の目に、当代随一の人気・実力を誇る後輩女優はどのように映ったのか?

「ご一緒して、女優として、ハートをすごく大事にしているのが伝わってきました。もしかしたら、『何者』の撮影時期に、それを強く意識されていたのかもしれないし、自分にもそういう時期はあって。試行錯誤しつつ、現在もその真っ最中なんですけど(笑)。監督の指示に対しても『はい』とそれを受け止めつつ『こういう気持ちでやってみました』と言ったりして、自分の意思をしっかり持って芝居をされる女優さんなんだなと。何より、動じない強さを持っているんです。テイクを重ねると『OK出さなきゃ』と焦ってパニックになるし、『私のためにこんなに時間を…』とか考え始めて芝居が崩壊してしまうことって、しょっちゅうあるんです。でも、有村さんはそこで全く動じることがなかった。その姿を見て『なるほど…』と。今回、初共演でしたが、“有村架純”がいま、このポジションにいる意味が分かりました」。

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