「最もヘイトフルなのは……」ヘイトフル・エイト t0moriさんの映画レビュー(感想・評価)
最もヘイトフルなのは……
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観賞後、何とも言えない居心地の悪さが残った。ああ、これは試されてるな、と言う感じ。
最もヘイトフルなのは、ナレーターでもあるタランティーノ自身だと感じた。
少なくとも、社会的弱者の復讐を扱った、前2作のアプローチとは明らかに違う。恐らくこの「物語」そのものを、タランティーノは愛してないように思う。映画の為の道具に使っているだけだ。
ミステリーとしてのトリックも冴えないし(そもそもそこに拘ってない)、いつもの一見無駄話な会話の応酬が楽しいから、ついつい引き込まれて観てしまうけど、プロット的には大した事はやってない。だけど、本作の本質はそこにはないんだろうと思う。
嘘だらけの会話を通して、実のところ、この映画自体がタランティーノの「嘘」(当然フィクションって意味でなく「馬鹿が見る〜豚のケツ」って方の)なんだと思う。だからこそ、何か観る物の背中にジンワリ嫌な汗が浮かぶような、居心地の悪さを残すのだろう。
ちょっとコーエン兄弟っぽいシニカルさに溢れているけど、ルックがまったく違うタランティーノ節で、一見馬鹿っぽいけど何とも巧妙な嘘をつかれた気分。
オチは初稿とまったく違う物だと言うから、脚本の流出事件は、功を奏したのかも知れない。一度物語の執着がはがれ、こんな奇抜な作品に仕上げる事を思いついたんだろう。
好きか嫌いかと問われれば、前作『ジャンゴ』の方が遥かに好きだし、何度も観る映画ではない。けれど、この映画の事を反芻したい。そんな気持ちにさせる。
★0か★5のどちらかしかあり得ないような、けれど傑作である事は間違いない。
本来の70mm全長版で観てみたいが、国内では適わぬ思い……。英語が堪能だったらなぁ。
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