ぼくのおじさん : 特集
嫌なこと忘れたい、リラックスしたい、元気が欲しい、そんなあなたのための1本。
松田龍平&山下敦弘監督が届ける《この秋一番の“ほっこり”ムービー》
「舟を編む」の松田龍平と「もらとりあむタマ子」の山下敦弘監督がおくるホーム・コメディ&ロード・ムービー「ぼくのおじさん」が11月3日より全国公開。芥川賞作家・北杜夫のユーモアたっぷりの世界を映画化した本作は、現代社会のストレスから解放されたい人のための“ほっこり”ムービーだ。
何やってもダメ。だけど屁理屈ばかり。そして、万年床でずっとマンガ。
でも好きにならずにいられない! 新・癒しキャラ=ぼくの“おじさん”登場
過ぎていく時間はすごいスピードなのに、やらなければいけないことは山積みと、現代を生きるというのはなかなか大変。例えば昨今のゆるキャラ人気は、とにかくみんな癒されたい、たまにはストレスから解放されたいという気持ちの表れのひとつかもしれない。そんな状況のなか、この度、日本映画界に新たなる愛すべき癒しキャラが誕生した。その名は“おじさん”。「自分の周りにいる大人」をテーマに作文を書くことになった小学4年生の春山雪男くんが題材に選んだのが、父親の弟で家に居候しているこの人。運動も勉強もからきしダメで、いつもマンガを読んでばかりというちょっと困った人なのに……見ているとほっこりさせられて、ついつい好きになってしまうのだ。
マイペース過ぎる人だけど、引きこもりやニートではなくてちゃんと仕事はしている。とはいえ週1日だけの非常勤の大学講師で、教えているのは哲学。それだけに理屈っぽくて、いつも「ああ言えばこう言う」の屁理屈ばっかり!
大学で学生を相手に講義してるくらいなんだから、きっと頭はいいはず。なのに甥っ子の雪男くんが「勉強を教えて欲しい」と頼んでも、のらりくらりとかわして結局なんにも教えてくれない。要は自分が面倒なだけなのだ。
とりあえず毎日時間はあるので、雪男くんが友達とスポーツをして遊ぶときには、人数合わせに連れて行かれる。やる気はあるのに運動神経はゼロ。サッカーのキーパーをしてもザル状態だ。準備運動する仕草もなんだかすごく変!
「哲学を教えるのは非常に頭を使うことなんだ」とリラックスを言い訳に、とにかくマンガを読むことが大好き。雪男くんに週刊のマンガ雑誌を買いに行かせては、引きっぱなしの布団の上に寝っ転がっていつもニヤニヤ読みふけっている。
つまらないイタズラを仕掛けては、雪男くんの母親にまで怒られてしまうドジな人。背も高いしスリムだし、ちゃんとした身なりにすればカッコイイのに、おしゃれにはまるっきり無頓着。ほんと、寝ぐせの髪の毛くらい直せばいいのに。
こんなにリラックスできる映画は久しぶり。
「ぼくのおじさん」が提供する6つの“ほっこり”
大人なのに子どもみたい(いや、甥っ子の雪男くんの方が断然しっかりしている)な“おじさん”が、お見合いで一目ぼれした日系4世の美女を追いかけ、雪男くんとともにハワイまで飛んで行ってしまう珍道中を描くのが本作。スリリングな事件もダイナミックなアクションも描かれないのに、ついつい物語に引き込まれ、愛すべきおじさんのムードとペースに巻き込まれてしまうのは、本作が高い作品力を持っているからに他ならない。描かれるテーマやスタッフ、キャストなど、注目するべき6つの“ほっこり”を紹介しよう。
しっかり者の雪男くんと、彼が「ほっとけない」と面倒を見るマイペース過ぎる“おじさん”のコンビぶりに注目だが、「大人と子どもの組み合わせ」はヒューマン・ドラマの原点のひとつ。本作と同じ響きを持つタイトルの「ぼくの伯父さん」を筆頭に、「ニュー・シネマ・パラダイス」「アバウト・ア・ボーイ」「カールじいさんの空飛ぶ家」と数えればきりがない。世代を超えた組み合わせの面白さと、互いが影響し合って成長するさまに引き込まれるのだ。
世間のスピードや面倒なあらゆることから距離を置いた、ひょうひょうとした“おじさん”のキャラクターが見事だ。「探偵はBARにいる」シリーズや「まほろ駅前」シリーズでも浮世離れしたたたずまいで映画好きを魅了してきた松田だが、「舟を編む」「あまちゃん」では丸メガネを掛けて、見る者をくすりとさせるようなコミカルな味わいもかもし出した。本作はその方向性がさらに発展した、松田龍平・癒しのメガネキャラ・バージョン最新版だ。
全体を包む、ほっこりとした癒しムードも出色だ。メガホンをとったのは、07年の「天然コケッコー」で、報知映画賞最優秀監督賞を最年少で受賞した山下敦弘監督。「苦役列車」「もらとりあむタマ子」「オーバー・フェンス」と、常に話題作を発表する実力派若手監督だ。社会の枠からちょっとだけはみ出した人に優しい眼差しを向ける作風は、“山下タッチ”と呼ばれるほど映画ファンから高い評価。その空気感に癒されるのは間違いない。
松田とオーディションをくぐり抜けて抜てきされた子役・大西利空に加え、実力派キャストの面々が顔をそろえているのにも注目。マドンナには「そして父になる」の真木よう子、おじさんの恋敵にはTEAM NACSの戸次重幸(「永い言い訳」)が扮する。さらに雪男くんの両親には寺島しのぶと宮藤官九郎がキャスティング。雪男くんの担任の先生役として、「デスノート Light up the NEW world」も話題の戸田恵梨香が出演している。
原作は、純文学作品で才能が絶賛されるとともに、「どくとるマンボウ航海記」など、自身の体験をつづったユーモアあふれるエッセイで人気を博した芥川賞作家・北杜夫。「ぼくのおじさん」は、北が自らをモデルに、兄の家に居候していた時代の記憶をふくらませて、微笑ましいエピソードたっぷりに描いた作品。「麻雀放浪記」「快盗ルビイ」の監督としても知られる和田誠のイラストとあわせて、今なお幅広い世代に愛され続けている名作だ。
“おじさん”が一目ぼれした女性を追いかけて旅立った後半は、癒しの島、パワースポットとしても高い人気を誇るハワイが舞台。ホノルルで有名なオアフ島に加えて、火山や森林など雄大な自然が魅力のハワイ島でもロケが敢行されており、スクリーンを見ているだけもリラックスできるはずだ。
忙しい? 悩んでる? 元気ない? 息抜きしたい?
“こんな人たち”のために、「ぼくのおじさん」はある。
マイペースな“おじさん”の姿と癒しムードたっぷりの世界観は、「こんな人たち」にまさにぴったり。忙しい人、悩みが多い人、元気がない人、息抜きが必要な人──あなたはどのタイプに当てはまる?
仕事や学業、家事や育児など、毎日忙しく時間に追われている人には、おじさんのマイペースぶりに注目してみてほしい。「え? こんなので大丈夫なの?」「なるほど……これでいいんだ」と、いかに自分が焦っていたのかが客観的に見えてくるはず。ちょっとくらいひと休みしても大丈夫だと、ほっとできてしまうかも。
さまざまな不安を抱え、つい悩みがちになってしまっている人なら、雪男くんとおじさんの凸凹コンビぶりにクスクスと笑ってみるのが得策。大人なのにいい加減なおじさんが、しっかり者の甥っ子に叱られるさまのギャップは可笑しくもありバカバカしくもあり。大いに笑えば、少なからず気分が晴れやかになるはず。
失敗したり嫌なことがあったりして、気落ちしている人なら、登場人物たちの温かい気持ちにきっと癒されるはず。個性的な人々は登場するが、誰ひとりとして悪人ではないという作品はなかなかお目に掛かれない。“いい人”たちのムードに包まれたなら、きっと前向きな気持ちになれる。
「息抜きしたいけど、なかなかそんなゆっくりした時間はなくて……」とお嘆きの人なら、たった2時間であなたを連れて行ってくれる、癒しの島・ハワイの美しい大自然をおすすめ。おじさんののんびりムードに加えて、ハワイの癒しムードを堪能できたなら、それは完璧なリラックス・タイムになるはず。