「終始背中を押してくれた姉の静かな愛」ブルックリン everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
終始背中を押してくれた姉の静かな愛
姉の図らいで、閉鎖的で陰鬱としたアイルランドの故郷を離れ、新天地アメリカへ一人旅立つ娘Eilisの物語。
当初は故郷そのもののような覇気のない表情でホームシックに浸る彼女も、Brooklynでイタリア系の彼氏が出来てからは、どんどんあか抜けて明るくなっていきます。どんな時でも女性にとって、恋は強力なスパイスなんですね(^_^)
故郷のことなど吹っ飛ぶくらいになってから、急遽不幸があり帰郷することに。その直前、皆に内緒でいいからとせがまれて、恋人Tonyと結婚します。
内緒と言われたから既婚であることを皆に黙っていたというより、Eilisはアメリカに永住することに不安があったのだと思います。どんなに黙っていてと言われても、恋人からプロポーズされ即結婚したら、普通女性は舞い上がり嬉しくて嬉しくて、親友だけには喋ってしまう筈です。それが女心です。彼女が指輪も隠していたのは、心のどこかにまだ故郷を捨てる覚悟がなかったのです。家庭を作るなら、慣れた土地のほうがいいのではないかと、誰しも案じるのではないでしょうか。
ヒロインをあばずれとか狡い女だと評する、恐らく男性陣が散見されますが、主人公がもし男性だったらどうでしょう?アメリカに妻がいながら、別の土地の女に手を出す… ミュージカルにもオペラにもなった珍しくない話、今更映画化しても、あまり新鮮味がないようには思いませんか?
故郷で出会うJimの語り口、褒めっぷりから、Eilisの姉Roseが、息苦しい街で、浮いた話もなく、孤独な母親の世話をして、如何に模範的に暮らしていたかが分かります。帰国子女となったEilisに惹かれつつも、Jimは無意識に、Roseを失った悲しみを一番共有できる相手として慕っていたのかなと思って観ていました。JimとRoseをくっつけたかったなぁ。
Eilisが帰郷してすぐに唯一結婚の報告をするのが姉の墓前です。静かに咲いて散って逝ったRose。Eilisが、好条件の男性Jimがいる故郷に残ることを本気で望んだのなら、幾らでも方法はあるでしょう。意地悪婆さんが思い起こさせた、田舎町の噂好きで陰湿な側面は、姉がどんな思いで自分をアメリカに送り出したかをも思い出させました。姉の分まで人生を謳歌する為にも、故郷を離れ、まっさらの新天地で未来を築きなさいと、最後まで姉は無言で妹の背中を押していたようでした。母親を呼び寄せては?とは思いましたが、故郷にもう未練はないでしょう。アメリカでTonyと一から生きる勇気をもらうための里帰りとなりました。
二つの街、恋愛前後、渡航前後、と多くの対比があります。アイルランドとイタリアの対比を最も可愛いらしく表現したのは、Tonyの末の弟で、とてもキュートな小悪魔でした。