「優しいファミレスの味」恋妻家宮本 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
優しいファミレスの味
はっきり言ってしまえば、わざわざ映画にするほどのスケールでもなければ話でもない。TVの2時間SPドラマでも充分である。
しかし、笑えて、切なくて、ホロリとして、ほっこり出来る、実にいい映画であった。
監督の遊川和彦が手掛けたTVドラマは全く見た事無いが、本作鑑賞最大の理由はズバリ、主演の二人。
阿部寛と天海祐希。
だって、この二人の共演ってだけで何だか面白そうで見たくなるではないか!
共演は20数年振りだという二人。
それを感じさせない見事で絶妙でナチュラルな掛け合い!
面白いのは、どんな場面も笑いに転じさせる点。
何気無い日常の会話だけでもクスリ。
真面目なシーンの次の瞬間には笑わせる。
それでいて、笑いの中に、じんわりと感動させる。
名人級の夫婦芸!
結婚に向いてなくて、教師にも向いてなくて、自分自身の事も好きになれない夫・陽平。
ネガティブ、ウジウジ、物事をはっきり決められない優柔不断っぷりは見てて(いい意味で)イライラするほどで、そのダメ人間振りは、昨年の「海よりもまだ深く」をも上回る阿部寛史上“最低”。
教師のくせに大事な場面で気の効いた言葉の一つも言えやしない。
でも、それが普通の人だよね。
そんな憎めない冴えない夫を好演。
夫が冴えないなら、妻はさぞかししっかり者…NO!
夫よりかは性格はサバサバしているが、化粧っ気ナシ、顔には染み、頭には白いものが目立ち始め、こちらもこちらで疲れてる感いっぱい。
極めつけは、寝ながらお尻をポリポリ。
天海祐希はいつまでも惚れ惚れするようなカッコいい女性であって欲しい。
そんな天海祐希のオバサン姿に衝撃と言うより、ドン引き!
でも、彼女がこれまで演じてきたどの役よりも身近で親近感が沸いた。
そんな愛おしい妻・美代子を、こちらも好演。
スターオーラを消した普通の夫婦っぷりは素晴らしいが、どんなに醜態を晒しても何処か上品なのはやはり消しきれないスターオーラ…?
結婚27年目の陽平と美代子。
一人息子も結婚して家を出、できちゃった婚だった二人の結婚以来初めての夫婦水入らずの生活が始まった矢先、陽平は美代子が隠していた離婚届を見つけてしまい…。
「俺との結婚生活がそんなに不満か!?」
「不満は無いけど、不安はあるの」
予告編でも印象的なこの台詞が表すようなチクチク可笑しい夫婦の熟年離婚劇かと思いきや、50男のてんてこ舞い劇。
熟年離婚の危機で動揺する中、クラスでも困った問題が。
クラスのムードメーカーである男子生徒の家庭に複雑な事情が…。
一見陽気に見えるが、繊細さも秘める克也役の浦上晟周と、何かと彼を気にかける女子・明美役の紺野彩夏の二人が実に達者!
特に紺野彩夏のズケズケ言うSっぷりは陽平でなくとも見てるこちらもKO!
生徒が困ってるのに、何も出来ないでいる陽平。
でも、彼なりのやり方で、やっと生徒の助けになれた。
“優しさ”、そして「言葉に詰まったら…」に続く珍しく気の効いた言葉に思わず目頭がジワッとなった。
一難無事に済んで、最大の難題。
妻が離婚届を隠していた真意。
これは見ていたら薄々勘づいてしまうかもしれない。
夫婦水入らずの生活が始まったとほぼ同時に、夫は料理教室通いが趣味になる。
それと同じくして、妻の顔から笑みが消える。
ちゃんと気付いてあげてよ、陽平さん!
そんな鈍感な夫に対しての、まさしくジョーカー。
人生は選択の連続。
それをファミレスになぞらえてるのが面白い。
ハンバーグを頼んだけど、やっぱりカレーにしとけば良かった…あの時もあの時も後悔ばかり。選択は正しかったのか?
でも、そんな後悔と選択ミスしても、27年も連れ添って、今もファミレスに一緒にご飯を食べに行く欠けがえのない相手がいる。
いい時もあって、ダメな時もあって、全部引っくるめて良かったと思えるような結婚生活と相手の存在。
普通で当たり前の幸せ事かもしれないけど、それが温かくて優しいファミレスの味。
いい夫婦じゃないか!
ユニークなエンディングまで、見て良かった!と素直に思えた。