「天才は作られたのか?もともと天才なのか?」ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
天才は作られたのか?もともと天才なのか?
むかーし、
むかーし。
ことばにまだ、
きょうだいなちからがあったころの、
おはなしです。
『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ(2016)』
原題 Genius
(あらすじ)
へミングウエイ「老人と海」
フィッツジェラルド「華麗なるギャツビー」
を見出した編集者、マックスウェル・パーキンズ(コリン・ファース)の元に、まだ無名のトマス・ウルフ(ジュート・ロウ)の原稿が持ち込まれる。
そのまとまりのない大長編の中に、秀でた何かを見付けたパーキンズは、神編集でベストセラーへと導く。
続編で更に超長編を持ち込むウルフに、パーキンズは赤鉛筆を片手に、容赦なくばっさばっさと作品を切り刻み、またまたベストセラーへと導きます。
しかしその過程で、二人の関係に亀裂が……。
実話です。
有名(存じ上げませんでした)演出家:マイケル・グランデージの初監督作品です。
※後半ネタバレあります。
ここ数年、あまり小説が読めていません。
何故って、文章がとても気になるからです。
編集者さん、何してるの?って思ってしまうんです。
で、ある熟年作家せんせ曰く、「最近の若い編集者は小説を読んでないからさー」と。
だから最近の若い作家せんせの作品を読むと、こんな一文があったりしてゲンナリするんですよ。
「彼女の髪は肩までのセミロング」
セミロングって、そもそも肩までくらいなのでー(笑)
きっとパーキンズなら、ここ赤ペンでぴしって校正するでしょうね。
「子供より親が大事、と思いたい。」
これは太宰治の「桜桃」の一文です。
これは何故、「大事」の次に読点を打ってあるんでだろう?
もともと太宰って、読点を大量に打つんですけど。
"子供より、親が大事と思いたい。"
じゃないんだろう?
これ、口に出して読むと、ニュアンスが微妙に違うと思います。
何故、「大事」の次に打ったんだろう?
って、考えたくなるほどの作品が、最近ない。
いや、考えて打ったことが窺える作品が、ない。
慎太郎さんが、「"喉をごくっと鳴らして飲む"なんて表現をするやつに、芥川賞なんかやりたくないぜ」みたいなことを仰ってました。
慎太郎さんは苦手ですが、この部分には激しく同意です。
本作でパーキンズとウルフのやり取りを観ていて(個人的にはウルフに感情移入気味で、苦笑いで観ました)、ひと昔?ふた昔?もっと前の、まだ言葉に力があった時代。
言葉がもっと大事に、丁寧に扱われていた時代。
その頃の人達のことを、懐かしく思い出しました。
上記したようなことが気になる方なら、本作をより楽しめると思います。
これほど、小説に真摯に向き合った作品を知りません。
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(以下かなりネタバレ)
ウルフからは、「貴方に会うまで、私には友達はいなかった」と告白されるパーキンズです。
妻からは、得られなかった息子だとウルフを思ってるんじゃないか?と言われるパーキンズです。
ウルフのかなり年上の愛人アリーン(ニコール・キッドマン)からは、ウルフの恋人きどりか!と嫉妬されるパーキンズです。
そんなパーキンズですが、ラストまで帽子を脱ぎません。
男性が室内で帽子を脱がないのは、かなり失礼にあたります。
ウルフはとんでもないコミュ障に描かれていて、フィッツジェラルド(ガイ・ピアーズ)からも、そのことを怒られたりしています。
※華麗なるギャツビーが売れない!と嘆くフィッツジェラルドに、むっちゃ売れてるよ!みんな知ってるよ!と言ってあげたい。
だから殆どの観客は、人の心の機微が分からないウルフを、時に励まし、時に叱責し、多くの読者が受け入れる作品にしていくパーキンズって、すげー人格者!大人の男!編集のプロ!ってなると思うんです。
けど、商業的に成功した作品が、果たして良作か?となると別問題ですからね(笑)
偉大な芸術作品を、パーキンズが大衆化してしまったのかも知れない。
オリジナルそのまま出版していたら、さてどうなっていたか?
原題Geniusには、色んな意味が込められていますね。
Geniusって、ウルフなのか?パーキンズなのか?
そして、帽子問題です。
ウルフが亡くなって、パーキンズに手紙が届きます。
自分の態度に対する謝罪と、パーキンズへの感謝の気持ちが真摯な言葉で綴られていました。
そこで初めてパーキンズは、帽子を脱ぐんです。
友人
息子
恋人
パーキンズはその瞬間まで、そのどれともウルフを思ってはいなかった?
帽子は、編集者と作家の線引きアイテムだった?
人の心の機微が分からなかったのは、ウルフじゃなかった?
フィッツジェラルドはアルコール依存症が原因で亡くなり、ヘミングウェイは61歳で自殺、そしてウルフは37歳で、放浪の末に病死していますからね。
面白い!
面白い!
面白い!
もう一回。
面白い!