「アスリートたちよ、真のチャンピオンであれ」疑惑のチャンピオン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
アスリートたちよ、真のチャンピオンであれ
ランス・アームストロング。
ガンを克服し、自転車レース“ツール・ド・フランス”で7連覇を達成。
自らの体験からガンと闘う人たちの力にもなり、名実共に英雄に。
が、長年に渡るドーピング問題が発覚。7タイトル全て剥奪され、自転車界から永久追放。
彼個人だけじゃなく周りのドーピングの闇の実態や、彼のやったドーピングはスポーツ史上医学的に最も高度とも。
自転車界のみならず、スポーツ界激震の大事件…。
知ってる方なら有名な事件なのだろう。
スポーツ界のドーピング問題はよく耳にするが、ランス・アームストロングとこの事件については初めて知った。
作品はガン発症~闘病~復帰~栄光~疑惑~転落の一連の流れに絞られ、ランスや事件、ツール・ド・フランスに詳しくなくとも難なく見れる作りになっている。
ランスのドーピング疑惑を追い続けた記者デヴィッド・ウォルシュのノンフィクションに基づき、実話ならではのリアルさと衝撃さ。名匠スティーヴン・フリアーズの手堅い手腕も光る。
にしても、考えれば考えるほど、考え込んでしまう。
彼は英雄/善人か、愚者か。
ガン闘病。アスリートとしての活躍が嘘のように、弱々しく衰え…。
これは何かの間違いだ。俺はチャンピオンだ。
そう語る彼の姿には同情を禁じえない。
彼は諦めなかった。ガンを克服し、レースに復帰。7連覇という偉業を達成。
ガン撲滅運動にも尽力。自らの体験を基に講演を行ったり、多額の寄付も。病院も見舞い、重症のガン患者の子供を優しく励ます。
これらの彼の挑戦や行いは、彼の本当の姿であろう。
本当の姿がもう一つ。
レース中薬物を打つ。血液検査となった時、反応が出ないよう裏工作。
勝利への執着は人一倍。
勝たなくてはならない。勝って当然。負けるなんてあり得ない。
俺はチャンピオン。
それにしがみつく余り…。
この邪心、弱さも彼の本当の姿。
人は善人でもあり、愚者(悪人)でもある。
どっちが本当の姿?…と判別出来ない。人は複雑でもあるのだから。だからこそ考え込んでしまう。
英雄にも見え、高慢にも見える、ベン・フォスターの巧演。
手を出してはならない事に手を出してしまったランスの悪行は罪深い。
自分はドーピングなどしていないと堂々と宣言。ガンに苦しむ子供たちを励ます。
その裏でドーピングしていたと思うと…。
だが、悪いのは彼一人か…?
ファンの期待。プレッシャー。
ドーピングは組織ぐるみ。チーム内では当たり前のように。
さらには、“ドーピングのゴッドファーザー”と呼ばれる存在も…。
実話だから尚更震撼する。ドーピングの実態、スポーツ界の闇…。
ランスのドーピング疑惑を追う記者デヴィッド。
これまでにも多くのアスリートのドーピング問題を暴いてきた。
それ故スポーツ界や社内からも疎まれるが、真相を暴こうとする正義と信念は揺るぎない。
しかしそれは、ファンにとっては知りたくなかった事でもある。
ドーピングに手を出した事は悪い。でも…
私もテニスのマリア・シャラポワのドーピング問題が発覚した時、ショックだったな…。貧しい幼少時から父親と二人三脚でテニスの世界で一番になる!…という話を聞いて感動したからなぁ…。
デヴィッドの追及は阻まれるも、遂に疑惑がれっきとした事実として明るみに。“身内”から。
ランスのサポートチームのフロイド・ランディス。チーム内で横行していたドーピングを黙認、自身も服用。
その一方、待遇に不満も。新しい自転車を要求するが、そんな金は無い。金は全てクスリへ…。
やがてフロイドはツール・ド・フランス2006で優勝。彼も彼で有名な選手らしい。
が、ドーピングが発覚。この時の会見でランスの関与の口を割らなかった。
自転車界から干され、また復帰したいとランスに直談判。が、ランスは断る。
自分はいいように使われ、捨てられた。
フロイドのドーピング問題も自身の弱さだが、哀れでもあった。
今や売れっ子ジェシー・プレモンズが好助演。
スポーツ界のドーピング問題は無くならない。
取り巻く環境、過度のプレッシャーや背負うものが大き過ぎる故か。
それほどの真剣勝負。
無論手を出してしまったのは一部であって、ほとんどのアスリートは自身の本当の実力と結果だ。
オリンピックも終了。アスリートたちの活躍は誇らしい。
自分に負けず、道を踏み外さず、真のチャンピオンであって欲しい。