劇場公開日 2016年4月15日

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「地道な作業が実を結ぶという教科書のような話」スポットライト 世紀のスクープ REXさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5地道な作業が実を結ぶという教科書のような話

2016年7月21日
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記者たちの地道な作業に呼応するように、物語も淡々と進む。 彼らを過大評価することも、取り立ててヒーローに仕立て上げていないことにも、好感が持て る。

スポットライトは、四人編成のチーム。 そもそも聖職者の性犯罪を追う事になったのは、新任局長から「別の枠で取り上げているコラムをこのままに終わらすのは惜しい」との意見があったからで、この人の鋭い着眼点による功績が大きい。

そして調べるにつれ、驚愕の事実が明るみになる。教会がもみ消した聖職者の性犯罪率が、予想を遥かに超えて多かったのだ。 聖職者自体の数が、一地域に対して多いことが数字を押し上げているのこともあると思う。

その数字に辿り着くまでの地道な地道な作業。教会関係者の名簿に休暇や移動が含まれていたら、それは犯罪を犯した合図と推測し、頁を繰りつつ拾っていく。

それが長年聖職者の犯罪を心理学的要素から追ってきた研究者のデータと見事一致。そんな物的証拠とも言えない手がかりを頼りに、孤軍奮闘している弁護士や、被害者の会の助けを得て、被害者への取材にこぎつき数年がかりで調べあげていく。

聖職者による未成年への性犯罪は、彼らに宗教や地域や親への不信を植え付け、大人になってからも誰にも言えない恥辱と、永遠に消えない怒りで悩ます。元からゲイを自覚している少年であっても、それは変わらな い。

新聞記者から教会への糾弾は、地域の名誉を傷つけ、地域のつながりを断つことにもなるため、もみ消しに関わった弁護士や教会関係者から圧力を受ける。

命を狙われるとか、派手でドラマティックなことは起きない。 だが、文字通り生活や人生をかけて、罵詈雑言や拒絶に立ち向かう彼らの姿は、静かに静かに胸を打つ。 信念をかけられる仕事に出会える人はどれだけいるだろう。

取材対象者の家の裏に、さりげなく教会が建っているショットがある。
いかに教会が地域に密着しているかがよくわかる。
新任局長はユダヤ人で、 彼は第三者の目で、カトリック教会の闇に気 がついた。そういった人種多様なアメリカの複雑な社会構造も言葉の端々にあらわれ、勉強になる。

後半、数年前に被害者の会からボストングローブに送られた資料が局内で雲散霧消していたことが発覚。故意ではないとはいえ、それは着任間もなかった現スポットライト編集長の責任によるところだったと判明。 皆が言葉を失うなか、彼にかける局長の言葉が印象的だった。
「私たちは暗闇のなかを歩いていて、正しい道はわからない。ある日突然に光が指して自分の歩く道がわかる」と。

これはどんな仕事にもいえる。例えば原発などもそうだけど、事故が起こってからとんでもない過ちをおかしたことに気がつく。
それは電力会社、科学者、利権を受け入れた原発村、安全神話を鵜呑みにした社会、なにも考えず惰性で生活してきたすべての人間に当てはまる。

常に考え疑問を投じ、自分で調べること。それがいかに大事かを改めて教えてくれた、教科書のような話だった。

REX