「実直な映画」スポットライト 世紀のスクープ 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
実直な映画
地味な映画かもしれない。奇を衒わない演出で、ものすごく「普通」の映画と言ってもいい。だけど「普通」だからこそ響いてくることもある。「実直」だからこそ心動かされることもある。
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加害者が一番悪いし、それを意図的に隠蔽しようとした教会も勿論ものすごく悪い。
ただ、それ以外の人たちがみな清廉潔白かというとそうでもなく。
地域・コミュニティに波風たてたくない…そんな消極的理由で事件をスルーする地元民。アッパークラスになればなるほど失うものも大きいから慎重になる。告発する奴は空気よめないバカだ的な雰囲気。そんな長年の積み重ねが、事件の温床となる。私もその場に居たら、長いものに巻かれるだろう、そう思うと怖い。
記者たちが暴くのは加害者や権力だけではない。自ら属する共同体の弱点も暴かざるをえない。
そして事件が暴かれる何年も前から、新聞社には断片的な証拠は届いていた。大きな記事にすることもなくベタ記事だった。私は、意図があって隠蔽していたのだろう、教会か誰かに頼まれたのだろう、その悪徳記者は誰だ?と思いながら観ていたのだが…。
終盤明かされる結論はそうでは無かった。意図的な隠蔽というよりも、記者の「無関心」がきっとそうさせたのだ。自覚なく空気を読んでしまったのだ。普通の人の悪気のない行動。そのことへの深い自省、苦さが、ものすごく胸に響く映画だった。
「遠い海の向こうの怖い話」ではなく、私ら自身も知らずして陥っているかもしれない苦さ。その苦さを乗り越えるからこそ一条の光が射す。「権力に屈せず事件を暴いたジャーナリストはエラい」というだけではない映画だった。文章に纏めるとものすごく説教くさいが、映画は淡々と淡々とそのラストに至るので、素直に心動かされる。とても実直な映画だったと思う。