「想像していた以上の戦意高揚映画だった」陸軍 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
想像していた以上の戦意高揚映画だった
日本の敗色が濃厚なこの時、陸軍からの依頼によって制作された木下恵介監督の軍事色濃厚な作品です。息子が入営する為の行進を母親の田中絹代さんが小走りで必死に追いかけるラストシーンが「静かな反戦映画」として語り伝えられて来ましたが、この度初めて観る事ができました。(僕は、映画は映画館で観る派なので)
本作を観た当時の陸軍からは、その場面が厭戦的であるとして不興を買い、これ以後木下監督には制作依頼が途絶え、監督も「こんな日本でいっしょうけんめい映画をつくってもばかばかしい」と疎開先に引っ込んでしまったのだそうです。戦争へ戦争へと日本中が流れていた時代に、一体どの様に巧妙に戦争への批判的意図を忍ばせたのか、こりゃあ期待が高まります。
ところが実際に観てみると、飽くまで2025年からの見え方としてですが、想像していた以上に本作は戦意高揚・プロパガンダ映画に映りました。
「天子様(天皇)が一番苦労しなさっている」
「男の子は天子様からの預かりもの」
や、「命を投げ出して」「お国の為に」などという台詞が全く無批判に(戦時中だから当たり前ですが)頻出し、軍人勅諭の五ヶ条は何度も繰り返されます。それがあればこそ、息子の無事を祈る母のラスト・シーンが生きて来るとも言えるのでしょうが、僕には違和感が拭えませんでした。それならば、中国戦線で黙々と歩き続ける兵を撮った『土と兵隊』(1939)の方がよほど厭戦的でした。
戦争中で自由な言論が圧殺されていた時代だから仕方ないのでしょうが、芸術・報道の戦争責任とは一体どこまで問われるべきなのかなと改めて考え込んでしまいました。
とはいうものの、最後の田中絹代さんの演技は噂に違わぬ名演で胸に迫る物がありました。やはりこの人は大女優なんだなぁ。
