「創造と破壊こそ神の業」エイリアン コヴェナント 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
創造と破壊こそ神の業
※いつも以上に長文です、ご了承ください。
僕は『エイリアン』シリーズの大ファンで、賛否
両論だった前作『プロメテウス』も大好きである。
シリーズの産みの親であるR・スコット監督が
エイリアン誕生の物語を3部作構想で考えているらしい
というのは『プロメテウス』の頃からの噂だったので、
今回の『~コヴェナント』は自分からすると
「いよいよ来たぜヒャッホイイイ!!」という感じ。
おまけに予告編では遂に僕らのよく知るゼノモーフ
が登場して更に「ヒャッホイイイ!!」だった訳である。
(シリーズファンでない方には単に“エイリアン”と
呼んだ方が分かり易いかもだが、レビューでの
便宜上、この呼び名で書かせていただく)
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はいはい、考察と賞賛にスペースを割きたいんで
最初に不満をチェストバスターしてしまいますね。
一番の不満点は恐怖演出。
序盤のネオモーフ出現と襲撃はメチャクチャおぞましいが、
デヴィッド登場以降は、恐怖のテンションを高める為の
タメや演出の緻密さが不足していたと感じる。特に、
遂に誕生したゼノモーフの恐怖描写が物足りない。
終盤での登場なのでテンポを上げざるを得なかった
のかもだが、アイツがネオモーフ以上に凶悪・強力な
生命体であるという見せ場がもっと欲しかったし、
もっともっとネチっこく恐ろしく描いて欲しかった。
テーマの方に時間を割き過ぎていて、『エイリアン』
というSFスリラーとしてはちょい物足りないかな。
あと、ショウ博士達の宇宙船の発見・探索シーンも
アッサリし過ぎてて不満。異星人の船を発見したにしては
クルー達の驚嘆と戦慄がイマイチ伝わらないし、
観客にとっても『プロメテウス』以降のショウ達が
どうなったか?という謎がようやく紐解かれ始める
大事なシーンなのだから、『いよいよ登場!』
みたいな感じが欲しかったし、探索もじわじわ
おどろおどろしくやって欲しかった。
もうひとつ。
“創造主”の創った病原体の性質は矛盾してる気が。
あの星の“創造主”や他の生物の殆どは病原体で死に絶え、
変異した一部の個体や感染を免れた個体でデヴィッドは
交配や遺伝子実験を進めたのだろうと当て推量はできるけど、
『プロメテウス』や序盤での変異率を見る限り、
数え切れないほどのネオモーフがあの時点で
生まれててもおかしくない気がする……。
自分の中ではそこでちょっと引っ掛かってしまった。
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貶すのおしまい。褒めるのはじめ。
まず、あの生白い怪物ネオモーフが初登場する
シークエンス。ここは、超が付くほど恐ろしい。
背中からずるりと落ちた血の嚢(のう)から
胎児のようなネオモーフが生まれ出るシーンには
顔が引きつったし、血で足を滑らせるわ銃暴発させるわ
クルーのパニック状態もリアルに伝わってくる。
そして成長したネオモーフの異様なフォルム……
異常に痩せた腕と胸、のっぺらぼうのような顔……
ゼノモーフを彷彿とさせる体型ではあるが、まるで
人の肉を捏ねて造った木偶(でく)のようなおぞましさ。
あと今回は、遂に本家本元ゼノモーフ様ご襲来ということで、
1作目他を彷彿とさせるシーンが多いのも嬉しい。
1作目や『プロメテウス』の音楽の使い方もニクいね。
あと水飲み鳥君てシリーズ皆勤賞なんじゃないか。
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しかしながら本作の最大の見所・最大の恐怖は、狂気だ。
言うまでもない。デヴィッドが抱いた創造への狂気だ。
前作では、知りたい・造りたいという科学的探求
の為ならばどのような犠牲も赦されるという、
そんなテクノロジーの傲慢な姿勢に対する警鐘
というテーマが描かれていたと思う。そして、
本作のテーマはそれを更にエスカレートさせたものと考える。
ウェイランド社長はアンドロイド・デヴィッドを創造し、
彼を息子とまで呼んだが、当のデヴィッド本人は
己の立場に疑問を抱いていた。
知識も肉体も人間を凌駕し、歳も取らず不死である自分が、
なぜ弱く醜く老いさらばえ死に絶える人間に仕えるのか?
たまたま自分を造ったとはいえ彼等は猿も同然ではないか?
創造を禁じるのも、彼等が自分を恐れているが故ではないか?
デヴィッドの驕りは「自分は人間より上位の存在である」
というだけに留まらなかった。彼は人間以上を望み、
人間を創造した“創造主(エンジニア)”以上をも望んだ。
「我が名はオジマンディアス 王の中の王
我が業を見よ神々よ そして絶望せよ」
オジマンディアス=ラムセス2世は古代エジプトで
絶大な権力を誇り、自らを神と崇めたファラオ。
また、デヴィッドの名の由来であるダヴィデは
古代イスラエルの偉大な王であり、新約聖書に
おいてキリストはダヴィデの子孫とされている。
デヴィッドは、自分は神と同格に成り得る存在と
信じていたのだ。まさに神をも畏れぬ傲慢。
彼が“創造主”を滅ぼしたのは、生命を創造できる
唯一の存在となる為か、人間を創造した彼等の命さえ
自由に弄べる至高の力を行使できる喜びからか、
あるいは、愛するショウの為に、神の力を
象徴するような荘厳な庭を与えたかったのか。
デヴィッドはショウと共に生命を創造することを
望んでいたはずだ。だが言うまでもなくショウは
彼の行為を責めただろう。恐怖し拒絶しただろう。
それにそもそも、アンドロイドのデヴィッドと
不妊症のショウに子どもがつくれるはずがない。
だが、“創造主”の遺した種があればそれも可能だ。
デヴィッドが後々どのように交配を進めたかは不明瞭だが、
ショウを母胎にして交配の“原株”を造ったのは間違いない。
(ショウの遺体を使用したモニュメントは、
彼にとって破壊と創造を象徴する美だ。
破壊と創造は対義語ではない。
破壊と創造こそ神の業である。)
デヴィッドにとってあのゼノモーフは、
ショウと共に創造した愛しい我が子であり、
生存と繁殖という生物の本能に究極的に長けた、
純粋で、強く、美しい、完璧な生命体なのである。
神を騙るデヴィッドに祝福され、「生めよ増やせよ
地に満ちよ」を果たし得る生命なのである。
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コヴェナント号のクルーは殆どが夫婦や恋人たちだ。
ダニエルズとウォルターとの間で交わされた温かな
感情の交流も心に残る。だが、それら人間的な感情を、
デヴィッドの創造への狂気が覆い尽くす。
SFスリラーとしては不満点もあるが、ここで示唆された、
神を凌駕せんとする科学の狂気という点はすこぶる面白い。
『プロメテウス』よりはやや下げるが、大満足の4.0判定。
<2017.09.15鑑賞>
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余談1:
もしご存知無ければだが、
公式サイトにて Alien Covenant Prologue が2篇
公開されている。コヴェナント号クルーの人間関係や、
『プロメテウス』後のデヴィッドとショウ博士の
様子が語られている。後者は特に必見。
余談2:
今回ついに僕らのよく知るゼノモーフが誕生したが、
1作目の展開とはまだ微妙にリンクしていない。
(1作目はLV426という未知の惑星から発せられた
信号を辿ったクルーが“創造主”の船とエイリアン
の卵を発見するという展開)
前述通り監督は、ゼノモーフ誕生を『プロメテウス』
『エイリアン:コヴェナント』そしてもう1作で
描くという三部作構成を考えているらしい。
次回作で1作目までのリンクが語られるのか、それとも
監督の創作意欲がストーリーの整合性を上回って
パラレルワールドみたいになってしまうのか(笑)。
監督ももう80歳だが、頑張って仕上げて欲しいわあ。