「「冬至」は、一番寒くて、暗くて、夜が長い。 カトリーヌ・ドヌーヴが絶賛した監督の眼差し。」太陽のめざめ きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
「冬至」は、一番寒くて、暗くて、夜が長い。 カトリーヌ・ドヌーヴが絶賛した監督の眼差し。
とにかく少年マロニーの演技・表情が素晴らしいから、鑑賞者はそこに驚いてほしい。
ドヌーヴもブノワ・マジメルも霞んでしまう なりきった非行少年だ。
執務室。
判事ドヌーヴに手を取られ、
おずおずと手を伸ばした、ハッとするあのシーン。
「辛い時は手を握るのよ」の言葉のあと、
その特別の体験のあと、マロニーが今度は母親の手を幾度も握るカットがある。
弟や母親。そしてガールフレンドのために。
守りたい相手の存在に気づいたときに、初めてマロニーの表情が変わってゆく。
母に対して、判事や保護司に対して、ようやく大人になってサナギの殻を破った
マロニーは本当に素晴らしい演技だった。
厄介者で人さまの世話と迷惑になっていただけの自分が、今度は厄介者たちのために世話役にならねばならぬと悟っていく表情が、そこにある。
劇中、最初の保護司と、二番目の保護司と、双方ともに力尽きて泣いていたのだ。
とかく日本でも、児童相談所への風当たりは強いが、疲弊しきって辞めていく児相の職員や、家栽の人や、更生施設のスタッフや、
関わる多くの人材の奮闘に、心が動かされずにはおれない。
我が家には、
僕と兄弟として育った里子が二人いた。ひとりは盗癖がどうしても治らなくて、施設よりもこの子には家庭が必要だと判断されて、うちにもらわれてきた男の子だった。
いまは彼は刑務所にいる。
もうひとりは言語を絶するネグレクトを生き延びた女の子だった。
だからこの映画のすったもんだは、僕は肌感覚でよくわかる。
+ +
エンドタイトルロールには
慰めと希望の音楽が静かに流れる ―
バッハの結婚カンタータ「しりぞけ、もの悲しき影」(BWV202) が流れるのだ。
バッハが、公式な教会行事や貴族たちの見栄のために依頼されて作った大作ではなく、おそらくはバッハは知人のために、プライベートで書いて贈ったのだろうと言われている小さな曲。
マロニー夫婦とみどりごのために、「冬の終わりと春の訪れを告げるドイツ語の歌詞」が、柔らかいアリアを聴かせる。
+ +
判事ドヌーヴへの感謝とハグ、
保護司への慰めといたわり。
泣いている保護司に向かって初めて小声で「ジュ・テーム」と言えたマロニー。
そして、ニコリともしないが、しっかりと、しっかりと、我が子をその腕 カイナに抱いて、前を向いて歩いてゆくマロニーの姿・・
非常に上質な映画を見せてもらったと思う。
名優二人の引き立て役として、=単なるエピソードのひとつとしての非行少年を登場させたのではなく、
堂々と完璧に、そして徹頭徹尾、「マロニーを絶対の主役」として立てたこの監督のセンスが
本作をここまで高いものへと輝かせたと思う。
セザール賞有望男優賞 受賞。
マロニー役ロッド・パラドは映画初出演。
そして、やっぱりカトリーヌ・ドヌーヴとブノワ・マジメルは凄い。
対話が素晴らしい。フランス映画の真骨頂。
子供が拾ってきてくれた石ころを、大切に受け取った、ドヌーヴのあの思いやりが 温かい。