「笛の音だけが」父を探して 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
笛の音だけが
アシンメトリーで縦横無尽な山村の世界と、シンメトリーで画一的な都市の世界。少年はその度合いが前者から後者へと移り変わる冷たいダイナミズムを肌のうちに感じながら冒険を続ける。またここには子供-大人という対比も込められている。少年は山村から都会へと進んでいくにつれ「父との再会」という子供らしい希望を徐々に奪取されていき、最終的には、電車から降りてくる無数の父との出会いを通じ、逆説的に「父はもうどこにもいない」という大人的な諦観へ辿り着く。多彩な音に彩られた反政府デモ隊は黒々とした政府軍の攻撃によって打ち破られ、農園や工場で機械のように働くことで生計を立てていた人々は本物の機械の登場によって駆逐されていく。極めつけは、子供が見ていた世界が実のところ彼の人生の軌跡そのものだったことが明かされるシーン。彼の冒険を支えくれた力なき青年も、弱り切った老爺も、すべては彼自身だった。つまりどれだけ厳しく冷たい世界であれ優しい誰かがきっと助けてくれるという一縷の望みさえもがここで寸断されるわけだ。最後に彼が思い浮かべるのはマッチが生み出す幻燈のように儚い空想図だ。そこには母がいて、父がいて、そしてあの聴き親しんだ笛の音がある。きっと笛の音だけがたった一つ残された希望なのだと思う。無数の声なき声たちがあの笛の音のもとに再び集まったならば、あるいは今度こそすべてを黒で塗り潰そうとする巨悪に立ち向かえるのかもしれない。
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