「ミュージカル仕立てで良かった」美女と野獣 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
ミュージカル仕立てで良かった
2D 字幕版を鑑賞した。折角エマ・ワトソンの歌が聴けるというのに,吹き替えで聴くのは勿体ないという理由である。本作は,ディズニーが 26 年前に製作した長編アニメ映画の実写化作品である。実写化と言っても,野獣や野獣の執事や家政婦などはほとんど CG である。アニメ版とはベルの求婚者ガストンや父モーリスの設定が変えてあり,新曲も5曲ほど追加されている。
ディズニーは当初,ミュージカル仕立ててない実写版を企画していたらしいが,監督がミュージカルにするようにと熱心に周囲を説得してミュージカル版になったそうだ。これだけでも,監督グッジョブである。ラ・ラ・ランドと違って本格的なミュージカルになっていて,アメリカのミュージカル文化の完成度の高さが実感できる仕上がりになっている。
もともとフランスを舞台にしたおとぎ話が原作であり,宮殿や庭の風景などは完全にパリのオペラ座のエントランスやヴェルサイユの庭園を思わせるフランス風であった。その邸内に黒人のキャストが多かったのは,アメリカ風が混じっているようで興味深かった。
アニメ版では粗野なだけだった野獣が,教養の高い本質を見せるなど,主人公のベルが惹かれる設定に変えてあったあたりも工夫が感じられたが,最近も発覚した我が国での少女の長期監禁事件などを考えれば,自分を捕らえて自由を奪った相手に恋をするなどという話はあり得ないと思う。まず,その設定自体がファンタジーである。
だが,野獣の姿をした男が人間的で,人間の格好をしたガストンの中身は野獣そのものという対比はアニメ版より徹底していて小気味が良かった。また,本当に怖いのはガストンだけではなく,その口車に乗って行動を起こしてしまう民衆だということもよく描かれていたと思う。ただ,ガストンの従者のル・フウがゲイ設定になっていたのには,どんな意図があったのか,よく分からなかった。
役者は,エマ・ワトソン以外は早々に CG に変えられてしまってほとんど声優になってしまうので,ガンドルフやオビ・ワンの起用が勿体無いと思えるほどだったし,人間の姿のシーンでもメイクがやり過ぎで,誰だか良く分からなかったのは,これで良かったのかと疑問に思えるほどであった。
音楽は,アニメ版と同じアラン・メイケンが担当しており,本作のために書かれた新作も 26 年の時間差を感じさせないほど他の曲と違和感のない作りだったのには感心した。歌の背後で演奏しているオケの実力も物凄いもので,1st トランペット奏者には,さり気なく High G くらいまで要求されていたように思う。通常の C 管で吹いていたようだったが,驚嘆すべき演奏だと思った。
監督には,よくぞこのミュージカルを作ってくれたと感謝したい。オズの魔法使いやサウンド・オブ・ミュージックなど,ミュージカルの名作へのオマージュを感じさせるシーンがいくつか用意してあったのにも感心させられた。ディズニーは今後もアニメの実写化作品を続々と公開する予定だそうである。他の作品も本作のような良作になることを期待したいものである。
(映像5+脚本4+役者5+音楽5+演出5)×4= 96 点。