「先進的な映像技術と退嬰的なストーリー。」ジャングル・ブック 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
先進的な映像技術と退嬰的なストーリー。
ラドヤード・キップリングの「ジャングル・ブック」は、ディズニーのアニメ・実写含め、もう何度目の映像化か分からないほどだ。今回の売りはフルCGと謳われる映像テクノロジーで、ジャングルに生息する生き物の質感や毛並みから呼吸まですべてを再現し、ジャングルの風景までも作り上げたという徹底ぶり。かつて「ジュラシック・パーク」で恐竜のリアリティに驚愕してから23年。どんどん映像技術は進化・進歩を遂げ、もう行き付くところまで来た、という感じさえする。何が現実で何がCGか本当に分からないレベルまで達している。この映像の素晴らしさは、今後更に映像技術が進化してこの映画が古くなる前に、映画館で体験しておいた方がいい。
しかしながら、そんな映像の迫力とリアリティに反して、ストーリーが付随しないのがもどかしい。内容だけを救い取れば、完全に「いつものディズニー」なのである。ありふれた「いつものディズニーアニメ」と同じストーリー展開でお茶を濁している。まるで「ライオン・キング」の頃の価値観のまま時が止まったかのようだ。動物全般の行きすぎた擬人化も、実写だと非常に目に余る。クマのバルーなんか完全にプーさんのキャラクター造形に引きずられてしまっているし、大猿キング・ルイの唐突なミュージカルシーンも完全に浮いている。実に進歩的な映像美と、実に退嬰的なディズニー・ストーリーとが完全な齟齬を起こしてしまっており、映像が素晴らしいだけに物語の稚拙さがますます際立ってしまっていた。
同じストーリーでも、アニメーションで描いていたらきっとここまでの違和感はなかったのだろう。近年のディズニー作品の秀作も素晴らしいピクサー作品も、実写にしてしまったら途端に粗が出てくる可能性は十分にある。ここに「実写」の難しさを感じる。
これを言っては元も子もないのだが、これだけ映像の写実性を表現出来たのだから、いっそのこと全動物が一切喋らず、思い切ってセリフなしでこの物語を描き切ったら、ますますリアリティが増して、かつ想像力を掻き立てられ、芸術性の高い映画になったのではないか?という気もするのだが、それではさすがに「ジャングル・ブック」の実写映画化という定義と「ファミリー映画」というジャンルを踏み外してしまうか。
映像に不満はなし。映画の無限の可能性を感じられた点も素晴らしい。モーグリ役のニール・セディ少年ののびのびとした演技も見事だった(映像の大自然以上に雄大な演技をする少年だった)。と同時に「ディズニー映画」というカテゴリーが抱える制限と窮屈さを痛感する作品だった。