「感動させるエピソードが、日本企業のブラック的その場しのぎに思えてしまった。」海賊とよばれた男 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
感動させるエピソードが、日本企業のブラック的その場しのぎに思えてしまった。
山崎貴監督による2016年製作(145分/G)日本映画
配給:東宝、劇場公開日:2016年12月10日。
原作は百田尚樹で、未読。
出光興産創業者の出光佐三をモデルとした主人公国岡鐡造の半生と出光興産をモデルにした国岡商店が大きくなっていく様が描かれていた。
田岡(岡田准一)が創業し、どんどんと事業拡大していく。そして満州の極寒でも凍らない石油を研究開発した結果、満鉄での使用を石油メジャーから変えさせたところまでは、とても楽しみながら視聴すること出来た。しかし、その後は・・・。
戦後、全国の元海軍地下タンク底に残る石油をさらう業務を受注する国岡商店。他社がやらないキツくて厳しい業務。ポンプ吸入もできず最初は嫌がっていた社員たちだが、幹部社員・東雲忠司 (吉岡秀隆、ランニング姿に首タオル)のやってやろうという姿勢にほだされるかたちでバケツリレーで石油を掻き集める。映画はこの逸話を、感動をもたらす美談の様に描いていて、大きな違和感を自分は覚えた。
原油/石油に含まれる多環芳香族炭化水素は急性毒性のみならず強い発がん性があることが知られており、上記作業は将来の社員の健康を大きく損ねている可能性が有る。自分の中にもその様な感性は確かに存在するが、個人を犠牲にして組織の利益に捧げる構図は、特攻隊精神と同じで、そのベースにはそれを善とする教育とそれを自発的に遂行させようとする同調圧力が存在する。ただ、得られるものはあくまで目先の利益のみで(育成に時間が要る航空パイロットを確実に亡くし、戦争遂行をより困難にした)、本当に長期的に組織の利益にはなっていない様にも思える。
描かれたエピソードも、泥等不純物の混入が有り粘稠性が高い原油の新しい取り扱い技術(多分世界から望まれる技術)を研究開発する、大きなチャンスであったかもしれない。日本企業のブラック企業的なその場しのぎの対応を、批判精神も無く描くな!と思ってしまった。海外の日本大好き人間が見ても、こんな企業体質の元で働きたいと思うとはとても思えないのでは。
休息も取らずに兵隊を常時働かせて戦力ダウンする日本軍 vs ローテーションで休息を取らせながら長気的に戦う米軍。第二次大戦の結果があったのに、いつまで日本人は、科学的アプローチでなく、個人の犠牲を伴うその場しのぎの対応を行っていくのだろうか?こんな感性で世界では当然、勝てないだろう。
加えて、背広の汚れを顧みず石油かき集めに加わろうとする国岡(岡田准一)に、それに感激しつつその行為を止めようとする社員の描写に、2016年でも江戸時代の身分制的感性が、依然としてまだ残っているのかと、大きな感慨を覚えた。
監督山崎貴、原作百田尚樹、脚本山崎貴、製作中山良夫 、古川公平 、市川南 、藤島ジュリーK. 、薮下維也 、永井聖士 、加太孝明 、堀義貴 、前田義晃 、弓矢政法 、阿部秀司 、安部順一 、永山雅也 、水野道訓、エグゼクティブプロデューサー阿部秀司 、門屋大輔、プロデューサー佐藤隆博 、守屋圭一郎 、藤村直人、企画協力奥田誠治、撮影柴崎幸三、照明上田なりゆき、美術上條安里、録音藤本賢一、装飾龍田哲児、VFX山崎貴、VFXディレクター渋谷紀世子、編集宮島竜治、音楽佐藤直紀、DIプロデューサー齋藤精二、音響効果岡瀬晶彦、特機
奥田悟、衣装水島愛子、ヘアメイク宮内三千代、特殊メイク吉田茂正、キャスティング緒方慶子、スクリプター甲斐哲子、助監督安達耕平、制作担当櫻井紘史、ラインプロデューサー
阿部豪、アソシエイトプロデューサー櫛山慶。
出演
国岡鐡造岡田准一、東雲忠司吉岡秀隆、長谷部喜雄染谷将太、武知甲太郎鈴木亮平、柏井耕一野間口徹、藤本壮平ピエール瀧、須田邦裕、飯田基祐、小林隆、矢島健一、小川初美黒木華、浅野和之、国岡万亀男光石研、ユキ綾瀬はるか、盛田辰郎堤真一、木田章太郎近藤正臣、鳥川卓巳國村隼、甲賀治作。
個人の犠牲の上に成り立つ組織の成果は、褒められたり美談とされるべきではない。という考え方には同感です。
「ヒノマルソウル」は、同じ信条で冷たい書き方をしました。
この映画を観た時には、全く気がついてなかったですね。俺も日々、成長してるってことかな(笑)