「日本映画、いっちょやってやろうやないか!」海賊とよばれた男 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
日本映画、いっちょやってやろうやないか!
「永遠の0」の原作&監督&主演が再結集。
戦前~戦中~戦後、石油事業で日本発展に尽力した男をモデルに描く一代記。
ちょっとお堅そうな題材故、「永遠の0」並みの大ヒットは望めないだろう。自分も石油の世界の事などちんぷんかんぷん。
が、この見応え、熱気! 「永遠の0」より良かった!
まるでかつての山崎豊子原作&山本薩夫監督の一連の社会派エンタメを見ているかのよう。
年末を飾るに相応しい大作!
まず、主人公・国岡鐵造のモデルとなった人物を調べてみた。
そしたら何と、出光興産創業者ではないか!
幾ら疎い自分でも、出光ぐらいは知っている。
かなり脚色されているとは言え、これほどの世界的大企業になるまでどれほどの波乱のドラマがあったか妙に納得した。
小さな石油商店から大会社へ。
石油ってどれだけ高値で取引されるかびっくり。
鐵造の手腕はかなり強引。
取引先に相手にされなければ、自ら船を出し、海の上で売りさばく。
他社の石油より、うちの軽油!
異端の新参者がズケズケと入り込むんだもの、そりゃあ国内の同業者から目の敵にされる訳だ。
しかし、その行動力、決断力、度胸! それらには感銘を受けた。
戦後、石油が出来なければどんな仕事をも引き受ける。それが泥塗れの石油の中を這いつくばるような仕事でも。歯を食い縛って続ければ、また道は開ける。
戦後再び石油の仕事が。
順風満帆ではなかった。これまでは国内の同業者と渡り合っていたが、世界的な石油メジャーとの戦い。
負ければ全てを失う。
それでも鐵造は一歩も引けを取らない。
その行動力、決断力、度胸の源は、仲間にあるだろう。
家族のように思い、大切にする仲間の為、自分を信じ着いてきてくれる仲間を守らなければならない責任感。
だからこそ仲間も苦しい仕事をやり遂げる。
カリスマ性とかリーダーシップとかそんなんじゃない、だから仲間たちも彼を“社長”と呼ばない。
昔からも今も気心知れた商店の“店主”なのだ。
偉業以前に、共に団結して闘う彼らの関係性がとても魅力的だった。
泣かせの演出が多い山崎監督だが、今回は硬派な中に胸打つ感動要素を巧く挿入。
当時の世界観を再現したCG、美術は腕の見せ所。
山崎作品出演経験者他豪華な顔触れが揃う中、やはり圧倒的な存在感を放つ岡田准一が素晴らしいの一言に尽きる。
特殊メイクを施し、20代から90代までを声色をきちんと変えて力演。
本作を見たら、またジャニーズ主演で映画かよ…なんて陰口叩くのが恥ずかしくなるくらい、堂々たる映画俳優がそこに居た。
日本映画界になくてはならない立派な“店主”だ!
惜しまれるは、綾瀬はるか演じる妻とのエピソード。
仕事に没頭する余り、妻の気持ちに気付いてやれず。
決して完璧ではない人間的な欠点、晩年の余韻の為に欠かせないエピソードである事は充分承知だが、少々浮いていた。
見ていたら、ジャンルは全く違うが「シン・ゴジラ」と通じるものを感じた。
戦後や大災害後の苦境、そこからどう立ち上がり、立ち向かうか。
荒波に呑まれても、海賊たちは可能性や希望の大海原へ繰り出す。
日本や日本人はやれる。その底力。
いっちょやってやろうやないか!