「夢のマイホームと言うけれど、その夢の為に人は…」ドリーム ホーム 99%を操る男たち 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
夢のマイホームと言うけれど、その夢の為に人は…
度々映画の題材になるくらい、リーマンショックはどれほどアメリカ社会に影響を与えたか。
しかし世界的金融危機と言われても、遠い異国の金融界で、尚且つお金の動きに疎い者にとってはピンと来ない。『マネー・ショート』もちんぷんかんぷんだった。
金融業界やその世界に携わる人たちを描いても分からない。が、我々と同じ一般市民の立場だったら…。
本作で描かれている事はリーマンショック後の波状効果かもしれないが、そもそものリーマンショックの原因が住宅市場の悪化らしいので、あながち間接的でもないかもしれない。
実話に基づく。
リーマンショックによる不況で失職したナッシュ。
母と幼い息子と持ち家で3人暮らし。
懸命に仕事を探すも、当ては無く…。住宅ローンも滞りがち。
それでも猶予があったが、事態は急転。
不動産ブローカーのカーバーにより立ち退きさせられる事に…。
この立ち退きシーンが悲痛。
要は突然ブローカーが警察とやって来て、「出ていけ」。
裁判所の書類を持ち合わせ、完全に法を盾にし、なす術も無い。
必死に抵抗・訴えるも、これはもう決定事項。
住み慣れ、思い出が詰まった我が家が奪われる。
しかも、ほんの数分で必要なものを揃えて即刻立ち去れ。
そんな数分で準備出来るもんじゃない。何という無情さ…。
真っ昼間、近所の人たちが見ている前で…。
家を追い出され、家具も運び出され…。
生き地獄。
いくらローンが滞り、法とは言え、執行した側は人の感情があるのか…?
もし、自分がその身になったら…? いや、なってみろ。
が、一切同情も感情も表さないカーバー。
彼は人間なのか…?
立ち退いたナッシュと家族はモーテル暮らし。
ショックだが、生活していかなければならない。
立ち退きの時に仕事道具を紛失し、カーバーが雇った業者が盗んだに違いないとカーバーの会社に詰め寄る。
しかし、これがきっかけで…。
カーバーから仕事を与えられる。
誰かが立ち退いた空き家の掃除。中は文字通りのク○まみれ。
思っていた以上の報酬。
母も息子も大喜び。
以来、カーバーの下で働く事に。
この時の心情ってどんなものなのだろう。
雇い主は自分の家を奪った憎い相手。
そんな奴から仕事と金を貰う。
複雑だろう。
が、母と息子、生活には変えられない。
相手には罪滅ぼしと思って貰おう。
無論カーバーは微塵もそう思っておらず、なかなか使える奴と仕事を振る。
ナッシュに目的が出来た。
家を取り戻す。
カーバーの下で働き、カーバーに金を返していく。
そんなカーバーから正式に雇われる。
それはつまり…
貧しい人たちから家を立ち退かす側になる。
皮肉な話だ。ほんの少し前までは立ち退かされる側だったのに、奇妙な成り行きで自分が立ち退かす側に。
立ち退かした人たちは、自分と同じ境遇。
面と向かうのも、勧告をするのも、実際に立ち退かさせるのも、心苦しい。
相手から容赦ない言葉を浴びせられる。人でなし!
自分もそうだったから故に、板挟み。仕事ではあるが、立ち退きを勧告した人たちにかつての自分を重ねる…。
カーバーからは甘いと苦言。
これが自分の望みなのか…?
しかし、報酬は素晴らしい。
世の中って不条理。仕事も金も無くて苦しんでいる人たちもいれば、易々と大金を稼ぐ者もいる。
ずっと前者として生きてきた。なのに、一転して後者へ。
勿論それは真っ当な仕事ではなく。
だが、大金が稼げる。夢でしか見た事のない大金を。
それは自分を麻痺させていく。
元の持ち家どころか、豪邸も買える。
豪邸を買い、母と息子を連れていく。
ところが…
母と息子は拒否。
仕事内容を知って、批判。
私たちを苦しめた仕打ちを、自分で見知らぬ人に課すなんて。
仕事と大金と豪邸と引き換えに失ったものは…。
あまりにも大きく、痛かった。
そんな時カーバーから、完全違法の仕事を任される。
しかも相手は、知人。
それに手を染めてしまう…。
家を奪われた知人は逆上し、事件を起こす。
そうさせたのは、自分。
善悪の狭間で揺れ動き、ナッシュが取った行動は…。
アンドリュー・ガーフィールドの熱演光るが、マイケル・シャノンがやはり巧い。
このクセ者ぶり、狡猾な憎々しさ。どんな役もハマるが、憎まれ役をやったら当代ピカイチ!
社会派題材を見る者にも比較的分かり易く、サスペンスを絡めた演出や脚本が見事。
ミイラ取りがミイラに…ならぬ家を取られた者が家取りに。
ラストのナッシュの行動には救いを感じたが、この闇落ちが実話だという事に驚かされる。
一体、何をどう間違ったのか…?
己の弱さか…?
それとも、
世界的金融危機から始まった不況の煽りか…?