劇場公開日 2017年5月27日

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「Xでも話題になった「そうはならんやろ」のオンパレード」バイオハザード ヴェンデッタ 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 Xでも話題になった「そうはならんやろ」のオンパレード

2025年9月28日
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【イントロダクション】
ゲーム『バイオハザード』シリーズを基にしたフルCG作品。時系列としては、ナンバリングタイトルの『6』と『7』の間に位置する。
ゲームシリーズの主人公、レオンとクリスが、生物兵器を扱う武器商人アリアスと戦う姿を描く。
監督は、実写作品や『ウルトラマン』のテレビシリーズを務める辻本貴則。脚本に小説家、漫画原作者の深見真。製作総指揮には『呪怨』(2003)、『輪廻』(2005)をはじめとしたJホラーの名手・清水崇が参加した。

【ストーリー】
中国でのバイオテロ事件(『バイオハザード6』)から1年後の2014年。対バイオテロ組織BSAAの北米支部隊長クリス・レッドフィールドは、生物兵器を扱う武器商人グレン・アリアスを確保し、組織に潜入した女性エージェントを救出すべく、部隊を引き連れてメキシコの洋館へとやって来た。しかし、アリアスはエージェントの潜入を察知しており、彼女とその家族をゾンビに変えていた。部隊は敵味方の区別が出来るよう品種改良されたウィルスによるゾンビの群れの前に次々と殺害され、アリアスは逃亡してしまう。唯一生き残ったクリスは、女性エージェントの亡骸を腕に絶叫した。

一方、かつて寄生型B.O.W・プラーガを用いたカルト教団「ロス・イルミナドス」を壊滅させた(『バイオハザード4』)合衆国エージェント、レオン・S・ケネディもまた、戦いを繰り返しては仲間を失う日々に憔悴し切っていた。

4ヶ月後、クリスの元同僚で現在はシカゴ大学の教授を務めるレベッカ・チェンバースは、全米各地で発生しているゾンビ化事件の原因究明の為、仲間と共に研究に励んでいた。レベッカはウィルスに有効なワクチンの開発に成功するが、直後大学はアリアスの部下であるマリア・ゴメスの襲撃に遭い、研究員達がゾンビ化してしまう。試作ワクチンを投与して間一髪生き延びたレベッカをクリスが助けに現れるが、研究データや試作ワクチンは焼き払われてしまった。

レベッカは自分のノートパソコンに残した研究データを頼りに、ウィルスがかつて「ロス・イルミナドス」が用いたプラーガに酷似している事から、事件を解決したレオンに協力を要請しようとする。
しかし、レオンは休暇を酒浸りの日々に費やしており、クリスとも衝突し合ってしまう。2人の仲を取り持つレベッカだったが、彼女を狙うアリアスが仕向けたマリアと、その父ディエゴの襲撃により連れ去られてしまう。

レベッカを奪還し、アリアスの企みを阻止すべく、クリスとレオンは協力して戦う事になる。

【感想】
とにかくツッコミ所満載のストーリー展開と演出の数々で、それまでのCG映画シリーズより、一層荒唐無稽さが増している。
Xで話題になった、クリスとアリアスの“お互い至近距離から連射式のハンドガンを撃ち合っているにも拘らず、互いに掠りもせずに神回避する”近接アクションシーンは、その最たる物だろう。

元々、製作が本格始動するまでストーリーや登場キャラクターに関して、清水氏とカプコン側でも意見の食い違いがあった様子で、監督がアクションが得意な辻本監督に決まった事で、本作のアクション志向へ舵が切られた様子。

それと同時に、クリスが部隊を引き連れて乗り込むメキシコの洋館が、ラクーンシティ洋館事件(『バイオハザード1』)の舞台と酷似しており、また、レベッカが同僚のアーロンに襲われる際、彼が振り返る様子も『1』で初めてゾンビに遭遇するムービーシーンを意識している。他にも、ゾンビ犬の登場等原点である『1』へのオマージュが捧げられており、清水氏が目指したホラー作品らしい恐怖表現への憧れが表現されている。

クリスが飲んだくれになる展開は『6』のクリス編序盤で描かれていたが、本作ではレオンがその立場に陥っている。しかし、既にゲームシリーズで行った展開を、キャラクターを変えてもう一度やるというのは二番煎じ感が出てしまうし、本作におけるレオンの描写については、私は疑問に思う。
それは、レオンがゾンビ犬を引き連れ、バイクでハイウェイを爆走するシーンだ。ゾンビ犬の脚力が車より速いという誇張のされ方はともかく、それを始末する為にレオンが一般車両を犠牲にしてしまってはダメではないだろうか。あの爆発で車内に乗っていた人が助かるとは到底思えないし、レオンやクリスといったバイオシリーズの主人公が抱える十字架は、「持てる最善を尽くしても、それでも救えない命がある」というものであり、少なくとも最初(はな)から一般市民を犠牲にするような戦い方を彼らは絶対にしないはずだ。スローモーションと足でハンドル操作をするというカッコ付けまくりのアクションは笑えもするが、こうした本来のキャラクター性を歪めてしまっている表現は大きなマイナスポイントとなった。
せっかく、アリアスの本拠地でクリスを先に行かせてゾンビの大群を引き受ける描写や、2体のゾンビの頭部を重ね合わせて、1発の銃弾で2体を仕留めるといったクールな演出があっただけに勿体なく思う。

ラスボス戦も、相変わらずタイラントの亜種と言えるようなキャラクターを据える展開は流石に食傷気味だし、パワーアップした割にスペックも単純で、過去の映画シリーズやゲームシリーズのラスボス程の魅力を感じられなかった。

また、ラストで感染した浮浪者の男性がワクチン散布により元に戻った姿を見せて「めでたし、めでたし」の空気感を出しているが、ゾンビ化して他人を襲って死なせてしまった人々や、人間に戻った事でかえって致命傷で亡くなってしまう人だっているはずで、そうした人々の心のケアや被害に関して考えると、とてもハッピーエンドとは言えないのだが。
まさか、そうした惨事含めて「そんな先の事は分からない」とでも言うつもりだろうか?

こうした杜撰な脚本や演出の数々は、質の高いアクションやゲームシリーズへのオマージュとリスペクトを感じさせてくれていた前々作『ディジェネレーション』(2008)や前作『ダムネーション』(2012)の完成度とは程遠く、残念に思う。

そんな本作において、唯一手放しで絶賛出来るのが、久々の登場となったレベッカだろう。設定によると既に34歳だそうだが、ゲームシリーズ同様の天真爛漫さと、研究者らしい知識人ぶりのギャップが魅力的で可愛らしい。年齢を考えると、未だゲームシリーズの時のノリを引き摺っているのは、現実的な視点から考えると若干キツくもあるのだが、可愛いからヨシ。
アリアスの歪んだ愛を受けて花嫁衣装を披露するシーンに、スタッフからの人気ぶりが伺える。

【総評】
荒唐無稽なアクションは、バカ映画として楽しむ分には良いだろう。しかし、完成度の高かった過去のCG映画シリーズと比較すると、杜撰な印象は拭えない。

ラストでディエゴの仮面を見つめるマリアの演出があり、次回作に続く様子なので、どう転ぶのか。

緋里阿 純
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