「Talkin’ ‘bout all generations. これは、新しい青春映画の形。」映画 聲の形 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
Talkin’ ‘bout all generations. これは、新しい青春映画の形。
過去の過ちに苛まれる青年・将也と、酷いいじめを受けていた聾者の少女・硝子。5年ぶりに再会した2人の交流と救済を描いた青春アニメーション。
監督は『けいおん!』シリーズや『たまこまーけっと』シリーズの山田尚子。
小学生時代の将也を演じるのは『桐島、部活やめるってよ』『悪の教典』の松岡茉優。
原作は「週刊少年マガジン」に連載されていた同名漫画らしいのだが、これは未読。
まず一つだけ言わせてくれ!
OPにTHE WHOの「マイ・ジェネレーション」を使うのであれば、EDは「俺達はしないよ(シー・ミー・フィール・ミー)」だろぉ〜〜っ!!
"I hope I die before I get old"というフレーズがあるからマイジェネを採用したのかも知れないけど、この曲だけだと正直映画の内容とはマッチしていない。
オチに「シー・ミー・フィール・ミー」を配置すれば、クソガキ時代から孤独と贖罪の時代、そして苦難を乗り越えた末の救済までの道程をTHE WHOによって表現することが出来たのに…。
ロックンロールファンとして、そこは残念に思います🌀
エンドロールで"See me〜,Feel me〜,Touch me〜,Heal me〜♪"なんて流れたら号泣必至だったね。
と、余談(しかし一番言いたかったこと)はここまでにして。ここから本題。
鑑賞前は「高校生のキラキラ恋愛もの〜?興味ねぇ〜…。しかも障害者を売り物にした感動ポルノっぽいし。なんか絵柄もオタクっぽいし〜。興味ねぇ〜…。」なんて思っていたが、やはり先入観はよくない!
いざ鑑賞してみると、そういう映画では全くなかった。
物語の主題となるのはディスコミュニケーション。
過去の出来事により心を閉ざした青年と、発話でのやりとりをする事が出来ない聾者の少女。
これだけでも十分に物語を膨らませる事ができそうなものなのだが、本作ではここにさらにいじめの加害者/被害者という要素をも盛り込むことによって、観る者の心をぐちゃぐちゃにかき混ぜる一筋縄ではいかないハードなものへと作品を昇華している。
物語は将也の主観に沿って紡がれていく。
そのため、作中で描かれる硝子の人物像は、あくまでも将也を立脚点にして作り上げられたものでしかない。
そのことで観客はついつい油断してしまい、「あぁ、硝子ちゃんって素直で健気な強い女の子なんだな😌」と思い込んでしまう。
観客に硝子を天使の様な少女だと思い込ませる。このミスリードが、中盤の展開の衝撃度を格段に高めている。
硝子の自殺未遂により、将也は自分の考えの甘さを文字通り痛感し、硝子もまた、将也を巻き込んでしまったことを契機にして、本当の意味で他人と向き合うようになる。
最後の最後、クライマックスになって初めて、人と人とが分かり合える可能性のようなものが提示されるという、ただのゲロ甘青春ラブストーリーとは明らかに一線を画す、実にウェルメイドな筋立てである。
本当にこれほどレベルの高い文学的作品が少年マガジンに載ってたの?今の少年漫画って、自分が思っている以上に進んでいるのかも。
原作の単行本は全7巻。本作はその内容を2時間強にまとめたものである。
こういう場合、物語を詰め込みすぎてごちゃごちゃした映画になってしまうか、エピソードをすっ飛ばし過ぎたせいで意味不明なストーリーの映画になってしまうか、このどちらかになりがち。
しかし、本作は長編映画用に書かれたオリジナル脚本と言われても信じてしまいそうなほどに綺麗にまとまっている。
これは、元々の原作の構成が巧みだというのもあるのだろうが、やはり脚本家・吉田玲子さんと山田尚子監督の力が確かだということなんだろう。
吉田玲子さんはアニメファンならその名を知らぬ者はいないベテラン脚本家だが、山田尚子監督と原作者・大今良時先生はいずれも1980年代生まれ。
新たなジェネレーションが確実に業界の中心に踊り出ようとしており、その溢れる若さの脈動にこちらの心まで奮い立ちそうですっ!
…いやしかし、本作の雛形になった読み切り漫画を大今良時先生が執筆したのはなんと19歳の時らしいじゃないですか。マジかよっ💦
これだけの才能を見せつけられたら、自分が同世代の漫画家志望だったら確実に筆を折ってるわね。うーん、紛れもない天才だ。
とまぁ作劇的には絶賛せざるを得ないクオリティだったんですけど、気になるところがないわけではない。
まず、全体のテンポ感が均一すぎる。硝子の自殺未遂シーンをグッと山場にするため、あえてそれまでを平坦にしたのかも知れんけど、ずっーーとリズムがおんなじ感じなので結構退屈してしまった。
橋の上での公開裁判とか、結構あっさりしていて拍子抜け。耳を塞ぎたくなるようなイヤ〜〜な見せ場を期待したのだが…。もっと人間の暗部をドロドロと描いても良かったのでは?
もう一個気になるのは、ところどころに挿入されるザ・ラブコメ漫画的なやり取り。
「スキ」と「月」を聞き間違えたりね。そんな訳あるかい。こういう難聴系すれ違いって、いかにも作り物って感じがして萎えちゃう。
思わせぶりに顔を隠し続ける将也の姉とか、あれになんの意味があんの?お姉さんの旦那さんが黒人だったことをあんなに引っ張って隠し続けた意味は?
心理描写にリアリティを追求した作品であるからこそ、こういう普通のアニメならあまり気にならないような点が無性に気になる。
あと個人的に嫌なのは昏睡状態から目覚めた将也が、管とかを取っ払ってすぐさま硝子に会いにいくとこ。こういうのはアニメにありがちなんだけどすっごく嫌い。怪我を舐めんじゃねえ!『カリオストロ』のルパンだって、ドカ食い&爆睡で怪我を治したんだぞっ!!
こういう細かいところのリアリティラインは、もっと詰めて描いてほしかったなぁ😮💨
まぁ色々書いたけど、一番気になることはやっぱり将也&硝子以外の同級生たちの描き方。
原作ではどうなのか知らないけど、この映画を観ただけだと植野とか川井はただのクズにしかみえない。特に川井!!この…クソメガネは本当にどうしようもねぇな💢
川井の横にいる真柴とかいうニヤケ面も何のためにいるのかよくわかんなかった。
元いじめっ子の島田も、あれだけの出番じゃこいつがなんなのかよくわかんない。
2時間強のランタイムでは、これだけのサブキャラたちを捌くことは不可能。原作を改変してでも、もう少し登場人物は厳選した方が良かったのではないだろうか?
永束と佐原以外の同級生がクズにしか見えないせいで、ハッピーエンド的な終わり方が全然ハッピーに見えない。少なくともあのクソメガネにはグーパンした方が良い👊💥
全て丸く収まりました、的な物語の収束には不満が残るものの、映画としての完成度はやはり高い。
本作の公開年は2016年。この年は新海誠の『君の名は。』、庵野秀明の『シン・ゴジラ』、片渕須直の『この世界の片隅に』といったアニメ(特撮)作品の傑作が公開されているが、本作はこの並びに加えてもなんら遜色のない名作だと思う。やっぱり2016年はアニメ界奇跡の一年だ!
30代前半でこれだけの作品を作り上げた山田尚子監督の才能は素晴らしい✨山田監督の今後の作品にも期待したい。
マイ・ジェネレーションと言わず、オール・ジェネレーションズに鑑賞して貰いたい、新時代の青春映画です!
さすが、たなかなかなかさん、洋楽使うなら、歌詞にめっちゃこだわってほしいものですが、日本人はあんまり洋楽の歌詞に興味ないんですよね。
だから空耳アワーのネタが尽きなかったんだと思いますwww