「世界的金融危機のトリガーとも取れる出来事です」マネー・ショート 華麗なる大逆転 サミさんの映画レビュー(感想・評価)
世界的金融危機のトリガーとも取れる出来事です
題名であるマネーショート(空売り)ですが映画内では空売りなんて誰もしていません。
空売りと同じ理屈でとあるデリバティブ(金融派生商品)が破綻することで儲ける方に賭けた人たちの実話に基づいた物語です
映画の中で核となるデリバティブ「CDO」は銀行や投資銀行が企画販売した商品です。
この中身が「優良株とか債券詰め合わせセット」と「そこそこの株とか債券詰め合わせセット」と「激ヤバ株とか債券詰め合わせセット」とその他数多の金融商品から成るものです。組み合わせ商品セットを組み合わせすぎて売っている側もその内訳がわからなくなっています。
混ぜるのも激ヤバが入っているのもハイリスクハイリターンだと説明して売れば構わないのですが、最悪なのは銀行や投資銀行は優良株が含まれていることをいいことにズブズブの関係にある格付会社にAAA(トリプルエー)の評価をつけさせたことです。
誰だってAAAでハイリターンなら買います。こうしてCDOは一般投資家や他所の銀行や投資銀行にも広く多く売られてしまいました。
サブプライムローンという言葉ばかり独り歩きしていますがこの「激ヤバ株とか債券詰め合わせセット」の中にサブプライムローンを債権化したデリバティブがそこそこ含まれているというだけです。
そしてもう一つの核となる「CDS」です。
こちらはCDOの破綻に備えた保険です。CDOにもしものことがあった場合、CDOが大暴落して大損こいた時に一定の金額が補償される保険証券です。
但し売る側はCDOが暴落するとか全然思っていないので映画の中でも「マジでこんなの買ってくれるの?バカじゃないの」って感じでニヤニヤしながら大量のCDSを売る様子が描かれています。
そしてそしてこのCDOの中身、目論見書を読み解き絶対破綻すると気づいた一部の人たち、個人投資家や小さな投資会社や二人で立ち上げたベンチャー投資会社などごくごく限られた人たちがCDSを買いまくるわけです。
CDSは保険なので掛け金が必要です。
CDOの数%にすぎないとは言え元がデカいので掛け金もバカになりません。
保険金はCDOが破綻しないと発生しないのにそれがいつか誰にも分からない状況です。
現実にサブプライムローンの焦付きがアメリカ全土で起こり始め、サブプライムローン債券が含まれるCDOもなんかヤバいのではと皆が少しずつ感じ始めます、それでも国や格付け機関が全然問題ないと公言するので腰を浮かせつつも逃げ始められない人たちの様子、CDSを買った人たち、CDOの破綻に賭けた人たちの「こんな状態なのになんで破綻しないんだよ」がドキドキします。
でもでもやっぱり現実は止められません。
サブプライムローンの焦付きがアメリカ全土で一気かつ大量に起こったためCDSを販売した銀行とか投資銀行、つまり破綻するCDOの補償金を払わなければならないところの株が大暴落します。その差はあれど億ドル単位を支払う義務のある金融機関はとても持たないだろうという投資家たちのごくごく当然の反応です。
株価は大暴落して多くの金融機関が破綻の危機に見舞われますがリーマンブラザーズを除く金融機関、ドイツ銀行やゴールドマンサックス、モルガン・スタンレー、クレディスイスなど多くの銀行や投資銀行は国益に対するダメージを理由に公金、つまり税金が注入されて救済されます。
リーマンが救われなかったのはとりわけCDOやCDSの取扱量が多かったこともありますが国とのパイプが他と比べて太くなかった。ズブズブ度が低かったためとも言われています。
この映画で最も見逃せないこととして金融危機の余波は一般企業や労働者を直撃して倒産、仕事や家を失ったということ。そしてダメージを負った人々は救われることなく路頭に迷い悲惨な現実を生きることになったということそして何よりCDOを販売した諸悪の根源である銀行や投資銀行を救ったのはそんな市井の人々が納めた税金という点です
そういう映画です。