劇場公開日 2016年7月30日

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「本当に言いたいことを言えない子」クズとブスとゲス ぽかさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0本当に言いたいことを言えない子

2024年5月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

難しい

どうしようもない映画なんだけれど、どうしようもない社会を描いているのだから。
どうしようもない時代を生きているのだから、仕方ないのではないのかな?
共感を求めている訳ではなくて、こういう世界なんだよ、と言われたら、
 そうかもしれないね。哀しく頷くしかないような気がします。
映画を観る時に、気分を上げてくれたり、多幸感を与えてくれたりすることを
 期待しているとしたならば、これはそんなタイプの作品ではありません。
……ただ、共感してくれ、同情してくれとは、一言も言っていない。
  黙って、ぼろ雑巾のように叩きのめされても、わかってくれとは言わない。
ただの肉の塊としてそこに在る、そのことだけは認めてくれよと圧を掛けてきます。
監督にして主演の奥田庸介の佇まいは、ただ事ではありませんでした。
最初から最後まで、ほぼ100%に近い不快感をばら撒き続けているのが凄いです。
でもね、他人に迷惑を掛けて喜んでいるような余裕が、スキンヘッドにはない。
ただ、金を稼ぐ手段として、そんなことしか学べなかった貧しい出自のせい。
相手がどうこうと慮る心の余裕が無い。自分が生き延びるための金に必死なだけ。
悪気は無くて、そういう生き方しか出来ないようになっているの。
だから、最後に、リーゼントの男には女の画像の隠し場所を教えるし、
 自分(監督自身)が壮絶な暴力の対象とされるシーンを延々と撮っても、
  女の子に対する直接的な暴力シーンは意外なほどに少なかったりします。
端的には、ヘテロセクシュアルな表現をナイーブなまでに抑制していましたし。
作品自体をポップな映画にしようとするならば、2時間超の時間を程良く刈り込んで、
 可愛いお馬鹿の子=リーゼントの男と恋人を主役に持ってくること。
(スキンヘッドを主人公にする限り、ドストエフスキー的な文学にしかなりません)
子供が出来たバーのマスターも、ガンジャ好きの人も、父子家庭のヤクザも
 それなりにハッピー・エンドを迎えさせてあげること。
ヤクザの手下も誰一人として死なないようにすること。
スキンヘッドの男の生命力は、今でも超人的ですが(普通、あれは死ぬだろ)、
 明らかにあり得へん! もう笑うしかないところまで持っていくこと……etc.
嗚呼、たぶん、簡単にやろうと思えば出来るんでしょ。
でも、そうではないんだ!と、「愚」を貫いた監督の心意気に脱帽です。

ぽか