劇場公開日 2016年5月7日

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「長回し、ワンカット撮影といえばエマニュエル・ルベツキを連想しますが...」ヴィクトリア(2015) HammondJ3さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0長回し、ワンカット撮影といえばエマニュエル・ルベツキを連想しますが...

2016年5月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

長回し、ワンカット撮影といえばエマニュエル・ルベツキを連想しますが、本作には、彼の撮るような絵的な優雅さ、滑らかなカメラワークはなく、その代わり、緊張感よりも一体感といった方がふさわしい、観客もベルリンの街中で目の前で起きていることにどんどん没入していく感覚が味わえます。

今作の場合は、すべて手持ちカメラによる撮影のため、POVとしての臨場感×カットがないという点で、カメラで撮られているという意識がだんだん無くなってきます。そのうちに観客自身が、登場人物たちと共に行動し、同じものを見て同じ事態に巻き込まれていく当事者性があります。
かなりブレや振りが激しいのも事実ですが、逆に全く撮影に対する計算性を感じさせないのも、臨場感を煽っていて観る側の集中力を切らさない効果にも繋がっていると思います。

そして、もう一つ没入感が味わえる要因として、仲間とのじゃれ合いを丁寧に描いていることが挙げられると思います。
ストーリーは言ってしまえば、若者たちの愚行の顛末を追っただけのものですが、前半でその若者たちの馬鹿騒ぎに孤独だった主人公が加わっていくことで、そのまま観客も主人公に感情移入しやすいのだと思います。

とにかく俳優陣の集中力には脱帽で、本当にアドリブなの?と思ってしまうくらい、台詞に無駄がなく、プレーヤー同士のチームワークがそのまま演技に映えているようで、本当に自然な親密感が表れています。

主人公ヴィクトリアを演じたライア・コスタは本当に素晴らしいです。140分間出ずっぱりであれだけの喜怒哀楽の起伏を演じ分け、繊細で柔和ながら、エネルギッシュで芯の強い女性を演じ切りました。ドイツ映画賞主演女優賞も大大大納得です。

ストーリーとしては意外性もなく主人公ヴィクトリアの軽薄さにはツッコミたくもなりますが、音声をカットし音楽のみを流すことで彼女の感情の流れを表していたり、ビールやピアノ等の小道具までがストーリーに関連付けられていたりと、要所要所で演出が効いていて、ワンカット撮影以前にドラマの見せ方自体が上手かったと思います。

まだまだ語る余地はありそうですが、映画としてまず面白いので、ぜひ劇場へ足を運んで観ることをオススメします。

HammondJ3