「言葉にするのが難しいが感情を揺さぶられる傑作」ちえりとチェリー uttiee56さんの映画レビュー(感想・評価)
言葉にするのが難しいが感情を揺さぶられる傑作
以前からSNSで評判は耳にしていたが、スローシネマという独特の興行スタイルのため鑑賞する機会がなかった。先週から2週間限定で全国のイオンシネマで公開が始まったので、近場のイオンシネマに行ったら停電事故のため上映中止。今週は早くも朝9時台の上映のみとなり、時間が合わないため夕方の上映があるイオンシネマまで足を伸ばしたが、遠出して見るだけの価値はあった傑作であった。
上映が始まると、まずはその映像の美しさと、人形の自然な動きに心を掴まれた。スタジオライカ作品などの海外のパベットアニメーション映画と比べても、スケールは小さいものの、映像美と動きの丁寧さでは負けていない。日本にもこれほどのパペットアニメーションを作れる作家がいると知れただけでも見て良かったというものだ。
声優陣は、専業声優・実写俳優・お笑い芸人などから幅広く選抜された、申し分ないキャステングであった。主人公ちえり役の高森奈津美の可愛らしい声、チェリー役の星野源の優しい声、猫のレディ・エメラルド役の田中敦子の凛々しい声など印象的な声が多かった。
イマジナリーフレンドとの交流を通じて肉親の死の記憶を克服していくというストーリーは『若おかみは小学生!』を連想させるが、自分はむしろ想像が現実と対峙するという物語構造から、片渕須直監督の三部作(『アリーテ姫』『マイマイ新子と千年の魔法』『この世界の片隅に』)を連想した。
想像と現実を行ったり来たりしつつ、想像を現実と対等なものとして描く演出は、上記の作品にもあるものだが、本作はさらに、想像に現実と対等な「重さ」を与えるために、パペットアニメーションというとてつもなく手間がかかる方法を取ったのではないか。この「重さ」は、手描きや3DCGのアニメーションではなかなか得られなのものだと思う。
ボロボロと涙が流れ、上映終了後には立ち上がれなくなるほどの放心状態となったが、悲しい話という訳でもないのに自分でもなぜ泣いているのか説明がつかない。他人に薦めるにしてもどこにどう感動するから見たほうがいいと言えばいいのかわからない。しかしこれこそが言葉ではなく映像でしかできない体験をした証であろう。