「越境」ボーダーライン(2015) 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
越境
国境付近で繰り広げられる麻薬捜査を描いた本作。
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撮影ロジャー・ディーキンス、凄まじ。
隊列を組んで国境付近へと向かう黒い車。それを映すカメラが地上から空へと移動するライド感。ヘリコプターの羽音と共に加速し移動するカメラ。
ただそれだけだが、素晴らしい。ただただ素晴らしい。
国境への道程、それこそがこの映画の描いたものである。
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国境…もちろんそれは、アメリカとメキシコの地理的関係だけを指すのではなく。
法と超法規的措置との間にある境でもあり、善と悪との境でもある。
善?この映画に善なんてあったか?メキシコ麻薬カルテルも、コロンビア・カルテルも、かき回すCIAも、捜査するFBIも、それを指示するお偉方も、そしてシカリオ(暗殺者)も、それぞれの論理それぞれの流儀によって動いているだけであり、そこに対立が生まれ「境」があるというだけだ。
自分は正しい側にいる人間だと信じ流儀をかざすFBIの若造を、だから老獪なCIAは笑うのだ。お前の流儀で、この「境」を越えられるのか?この「対立」を無くせるのか?まだそんな事を信じているのか?それが傲慢なんだよ、と。
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FBIのケイトが「境」を越えたのは、ラスト、サインした時だ。自分の信じる流儀を捨てざるをえなかった時だ。
「捨てなければ殺す」と迫るシカリオも、遠い昔に善を捨てざるをえなかったのであり、そのオトシマエをつけるために暗殺者になった。
それぞれの越境の物語。凄まじく面白かった。
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追記1:いろいろ書いたが理屈よりも、アクション映画としてカッコいい。ミステリとして無駄を省いた脚本がいい。エンタメとして面白い。なによりベニチオ・デル・トロが素晴らしい。
追記2:「越境」といえば、コーマック・マッカーシーだなあ。そのことに触れた海外評も多い。『ノーカントリー』では、己の流儀で境を越えその傲慢さ故に罰を受けたジョッシュ・ブローリン、本作にも出演。マッカーシー『悪の法則』の越境を分かり易くエンタメに落とし込んだのが本作だと思う。
マッカーシー好きにはグっとくる映画だったなあ。
追記3:監督ビルヌーブ。『灼熱の魂』はギリシャ神話、『複製された男』はサラマーゴ、本作は(勝手な決めつけだが)マッカーシー。なかなかに文芸な監督さんだと思う。
カンヌで大好評を得るも受賞を逃した本作。(受賞作「ディーパン」も大好きだったけど)。ビルヌーブ監督は賞なんて取らんでも充分にやっていける、エンタメと文芸の境を横断しろ、ガンバレ。(素人がエラそうにすみません)