「削ぎ落した環境で描く兄弟愛」ひつじ村の兄弟 maruさんの映画レビュー(感想・評価)
削ぎ落した環境で描く兄弟愛
アイスランドで羊飼いをする、40年も口を利かない兄弟。
奇しくも、コンテストで優勝した兄の羊に疫病を見つけてしまった弟。
疫病の発覚で、その村全体の羊を根絶やしにすることになる。一頭も残してはならない。
その事実に感情的な兄は激昂し、冷静な弟は落胆する。
しかし、二人にとって羊は、人生そのもの。羊の出来こそ、人生の出来。だからこそコンテストに誰よりこだわり、自分を羊に強く投影する。
40年も口を利かない兄弟。つまり、40年も羊飼いをしていたということ。
まさに人生そのもの=羊は自分である。それが、一頭もいなくなることは、生きてきた証がなくなること。それだけは、ダメだ。他人(獣医)に決められていいもんじゃない!…と、羊を数頭隠して育てる弟。
ある日、兄にその事実を知られる。ほぼ同時に、獣医たちにも羊を隠していることを知られた弟は、仕方なく羊を兄の家に隠す。この行為自体が、兄を「羊飼い」として敬意を示しており、兄弟としての信頼が垣間見えた。
夜、山を越えて羊を逃がそうとする兄弟は、吹雪に見舞われ、弟は倒れてしまう。急遽かまくらをこさえ、裸で弟を温め、抱き合う姿は、なんとも美しい。兄弟愛が、人間愛が、描かれている。
羊たちが獣医らに処分されなかったことで、自分の人生が、生きた証が、「どこかで生きている」と思えるようになった。
兄が弟を裸で温めるシーンで映画は終わるが、あの猛吹雪に高齢の二人ですから、その後、二人が死んでいるかもしれない。しかし、そうだとしても生きた証は、羊は、自分たちの手で守り切った。それはそれで、ハッピーエンドかもしれない。
個人的には、酔っぱらって外で雪の上で寝てても生きてた兄の弟なので、二人は生きてるのだろうなーとも思います。観た後で想像を膨らませて、楽しめた映画でした。