「ある種の神話性や寓意を感じる老兄弟の物語」ひつじ村の兄弟 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
ある種の神話性や寓意を感じる老兄弟の物語
アイスランドの辺鄙な村で、固有種の羊を飼って暮らす老兄弟。
互いにいがみ合っていて、隣り合う広大な敷地の真ん中は、鉄線の柵で仕切られており、もう40年近くも口を利かないという有様。
ある日、コンテストで優勝した兄の羊が伝染性BSEに感染していることを知った弟は・・・というハナシ。
荒涼とした風景のなかで語られる兄弟の話は、ある種の神話性や寓意を感じさせる。
従順な純血種の羊。
弟はその羊たちの多くを自らの手で屠る。
しかし、その貴重な血は残しておきたいと、不法行為に及ぶ。
兄は兄で、弟が、伝染病に気づき、保健局に密告したために、いまの困窮があると恨む。
保健局への申告は正当なのだけれど、過去の諍いから、兄には背信のように感じている。
そのふたりの確執が、純潔種の羊を守りたい一心で、どこか通じ合っていく。
憎しみながらも、水よりも濃い血に抗えない、とでもいうように。
そしてクライマックスは、テオ・アンゲロプロス監督もかくや、とわんばかりの真っ白で厳しく、かつ幻想的な画面を魅せてくれる。
遺された羊たちを、猛吹雪のなか、兄弟たちが追うさまは、映画の「画力」を感じさせる。
さらに、エンディングシーンも驚きだ。
和解というのではなく、もっと直接的で直截的な「ふれあい」には、命の力も感じさせる。
この物語に神話性を与えたものとして、荒涼たる風景に加えて、もうひとつ重要なアイテムがある。
それは、十字架。
純血種の羊を匿う弟の家の、地下室に降りる階段のところに架けられている。
なにかしら、神の存在を信じたくなってくる気持ちにさせられました。
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