「終の棲家と夫婦の人生・・・って程でもない。」ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
終の棲家と夫婦の人生・・・って程でもない。
ニューヨークはブルックリンのアパートメントに住む夫婦が、階段だけでエレベーターもない、ただ愛着だけはある40年住んだその家を売るのだという。そして夫婦の「家を売る」「新たな家を探す」という小さな旅の一日を映画は見守っていく。
かねがね「家」はそのまま「人生」に翻訳されることがある。家を売ること、家を手に入れること、それらが人生に通じるのは容易に理解できる。
しかしこの映画が問題なのは、「家を売る」ということがそれ以上の何のメタファーにも通じず、老年期に差し掛かり人生を変える時期を迎えた夫婦の人生に一向に深く入り込んでいかないことだ。その代わりに、なぜか近隣で起きたテロ騒動と、愛犬のヘルニア手術、そして夫婦の過去の回想という3つのエピソードを重ねて描写し、4つの物語が何の関連もなく進んでいく。そしてそのいずれも書き込みが乱暴で粗雑なのだ。まるで退屈な文章で殴り書きされた誰かの日記のようで何も得るところがない。そうして結局夫婦が下した結論に、シンシア・ニクソン演じる姪の不動産ブローカーが怒って「Fワード」を浴びせかけるが、正直観ているこっちも全く同じ気持ちだった。夫婦は「一日中散々連れまわされた」と言うが、そんな夫婦を散々見せられた挙句の結末がこれか?!と、こちらだって意地悪の一つも言いたくなる。
ニューヨークの街をダイアン・キートンが闊歩するのは嬉しい。やっぱり彼女にはニューヨークの街が良く似合うし、知的なイメージのあるキートンとフリーマンがニューヨークにいる光景は実に心地よい。逆に言うと、キートンとフリーマンとニューヨークという役者を揃えておきながら、ここまで凡庸にしか出来なかった罪は大きい。ただシンシア・ニクソンだけは痛快なくらいに良かった。喜劇センスも抜群の彼女だけに、映画のリズム感やテンポを自在に操り一気に盛り上げる。登場するたびに画面が活気づくし、ストーリーに熱い血液がめぐるような感じがした。