劇場公開日 2016年1月30日

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「青い鳥は身近な処に有るものです!」ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0青い鳥は身近な処に有るものです!

2016年2月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

単純

幸せ

物語の舞台はNYのブルックリン。
年老いた画家のアレックスと元教師のルースの2人が、結婚以来ずっと暮らして来た我家を売りに出す事を決意。それに伴う1連の大騒動を通して、この2人のこれまでの人生を振り返り、愛を再確認し、また希望に満ちた余生を前向きに生き始めるお話、と説明してしまえば単純明快なお話だ。

きっと何時の日か、誰の生活にも起こりうる老後の生活と、それに纏わる不安と言うな身近なシュチエーションで多くの人の共感を呼ぶのは必然の映画。
そして、更にこの物語の主演を演じる2人がM・フリーマンとD・キートンと言う演技派の超ベテラン俳優となれば、外れるはずがない。確かに映画館は混雑していた。
だが、本当のところ正直に言えば、何故か私はこの作品に魅力を感じなかった。

若き日のアレックスとルースの出会い、2人が愛し合うようになる経緯等が時折回想シーンで描かれてゆく。それらの時代は今から40年前。丁度ベトナム戦争が混迷を極め、NYでは、BEIN等の平和運動やウーマンリブが叫ばれていた頃だ。
時代は今迄のアメリカの保守的な考えからよりリベラルな考え方へと世の中が大きく変わっていく過渡期を描いているわけだ。
とは言っても現実的には2人の結婚を歓迎する風潮が少ない時代から、彼らは共に自分達の結婚生活をスタートさせたのだ。何よりも2人の結婚を幸せで確かなものにする為に2人3脚で常時必死に生き続けてきた、大ベテラン夫婦の筈だ。しかし今の彼らの生活の様を観るにつけ、彼らがずっと40年に渡り周囲の偏見から自分達の生活を2人3脚で守りながら生きてきた夫婦には見えないのだった。
これでは日本の熟年夫婦の様に、家庭生活を守る事を最優先し、夫婦2人の愛の価値は後回し、或いは仮面夫婦でも、家庭が維持出来ればそれで良いと言う日本の大正か、昭和初期生まれの熟年以上の古いタイプの夫婦生活を描いているようにしか、観えないのだった。

70年代には若い芸術家達が多く住んでいたブルックリンも今では様変わりしつつ、人の価値観も移ろい行くその中で、昔のままの暮らしを大切に守っている老夫妻と言う設定にはとても見えない彼らの生活感が、残念でならなかった。
一般的に、誰が考えても交通の便利な大都会の満真中の街NY、しかも屋上では家庭菜園や、パーティ、そして花火も観られる絶景の我家を手放す老夫婦の混迷は如何ばかりのものか想像に易いのだ。白人夫婦や、黒人夫婦の生活として描いても十分リアルで自然な感じがしたと思う。
ベストセラーの映画化だそうだが、いかにもこう言う物語設定にする事自体、根っこには人種差別が横たわっているように思えてならない作品だった。
しかも、このブルックリンの橋を占拠している輩のお陰で、治安の悪化となるこのエリアの不動産価値が降下すると言う話に加え、橋を占拠している犯人像の設定も人種差別的であった。

唯一この映画で良かったのはエンドロールで流れる音楽と、この老夫婦2人が可愛がっている老犬のドロシー。ドロシーと命名したのは、「オズの魔法使い」にちなんでと言う事が説明されるシーンが有るが、正に「オズの魔法使い」ではThere is no place like homeと言うセリフで映画は終わるのだから、この作品も「家庭に勝る場所はない」と言いたいのだろう。
私はダイアン・キートンのファンだけれども、これはどうなの?と疑問を持ったので直ぐに公開が決定している「クーパー家の晩餐会」に期待したい。

ryuu topiann