「愛した人の望みを叶える事が果たして自分を幸せにするのか?」リリーのすべて みじんコさんの映画レビュー(感想・評価)
愛した人の望みを叶える事が果たして自分を幸せにするのか?
この映画は今から80年前の1930年に世界で最初に女性性転換手術を行ったアイナー・ヴェイナー(リリー)の生涯をモチーフにした物語です。
恋愛ストーリーには『難病もの』というジャンルがあります。
恋愛を阻む障壁として重い病気を設定することで、愛し合う2人の間に障害を作り、その困難を克服する為に努力する姿がドラマを生み出す恋愛ストーリーの定番と言えるジャンルですね。
例えば『セカチュー』や『余命1ヶ月花嫁』とか『電車男』なんかも『オタク』を『病気』として捉えると難病ものの1バリエーションと言うことができますよね。
そういう意味でいうとこの『リリーのすべて』は難病物ジャンルの作品にして、最大最強級の逆境、超ハードモードの作品だと思います。
画家同士の夫婦であるアイナーとゲルダ、
夫アイナーはある出来事を切っ掛けに自分の中にある『女性』に目覚め、実際の自分の性別との違和感に悩む、いわゆる『トランスジェンダー』として、自分の性別の『間違いを正す』ことにその生涯の全てを賭ける事になります。
つまり自分の心(女性)に対して間違っている肉体の器(男性)を正そうとする(性転換手術)ことが、この映画の大きなテーマとなるわけですが…
この肉体的『間違い』を是正する行為が、配偶者ゲルダから見て他の難病(癌や白血病)を克服する事と大きく異なるのは、
その手術に成功する事 = 自分の夫を失う事
になるという、行くも地獄、行かぬも地獄という、葛藤を産むわけです…
劇中でも最初は遠慮がちに女装をしていたアイナー(リリー)も、その本心をオープンにしてからは立ち振る舞いがどんどんと女性化してゆき(エディ・レッドメインの演技が素晴らしい!)
夫の幸せを思って支えていた筈の行いが、どんどんゲルダから夫を遠ざけてゆく辛さ…
だって彼女の愛した「夫』の存在が 彼にとっては唾棄すべき『間違い』なのですから…
自分の望みを叶えるべく、どんどん女と化してゆくアイナー(リリー)の身勝手さと、愛する夫の思いを叶える事が自分から夫を遠ざけてゆくゲルダの葛藤
2人の思いのすれ違いがもう、見てて辛い…辛い…
かって2人が愛し合ったベッドの上で交わされる会話
リリー『 いずれ結婚したい 』
ゲルダ『 私達、ついこの間まで結婚していたのよ 』
2人の間に引かれたカーテンがアイナーとゲルダが既に夫婦として愛し合う事ができなくなってしまっている事を象徴していてもの凄く悲しいシーンでした。
前しか向いていないリリー
諦めとも後悔とも言えない表情のケイト
2人の対比に胸が締め付けられます。
そして、すれ違いながら
たどり着いた2人の物語の終幕…
リリーの望みは叶えられたのか?
その結果、ケイトは何を得たのか?
答えは風の中…
空に舞うスカーフのように
地に落ちることもなく
誰にもとらえることなどできない…
そんな
美しく悲しいラブストーリーでした。