「.」レヴェナント 蘇えりし者 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
.
自宅にて鑑賞。五度目のノミネートで初のオスカーを手にしたL.ディカプリオを始め、'15~'16年における内外の各賞を総なめにした一作。自然光に拘って撮影された濁った無彩色の寒々しい原風景に重厚乍ら主張し過ぎないBGM。科白も少なめな上、夢うつつが度々混在する未整理で説明不足な構成もあり、1823年アメリカ北西部と云う時代背景や物語のバックグラウンドを知らないとなかなか読み解けない。ストイックな作り乍ら、情け容赦無く心揺さぶられる描写もあり、喩えるなら薄味乍らコッテリ濃厚で、お腹一杯になる一本。60/100点。
・実話ベースとの触れ込みだが、“ヒュー・グラス”、“ジョン・フィッツジェラルド”、“ジム・ブリジャー”や“アンドリュー・ヘンリー”隊長等、各人の設定や末路は史実と異なる箇所があり、あくまでM.パンクが'02年に発表した原作『レヴェナント 蘇えりし者』を元にしている。亦“ヒュー・グラス”の逸話は、R.C.サラフィアン監督が『荒野に生きる('71)』として映画化している。'10年、J.ヒルコート監督がC.ベールを“ヒュー・グラス”にした企画が進行していたらしい。
・一見、不屈の精神による復讐劇だが、或る意味で唯心論的な境地に至るラストでカタルシスを得られるかは観る者を選ぶ。本篇では殆ど説明が無いが、M.ナケコ演じる“アリカラ”族の探す“ポワカ”と思われる女性の顔を憶えておくと理解が深まる。
・リアルに拘り、劇中の時系列通りにカナダから始まった撮影は暖冬で融雪した為、アルゼンチン南部の高地に移り、約九箇月間に亘り続けられた。これにより撮影スケジュールは大幅に遅れ、予算も当初の6,000万ドルから9,000万ドルと徐々に膨らみ、最終的に1億3,500万ドルとなった。
・極力CGIに頼らない作りを目指したが、熊との格闘シーンや谷底に落下するシーン、馬を射殺するシーン等はこの限りでは無い。亦、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲('80)』にシンスパイアされたとされる馬を切り裂いた後被り、吹雪を凌ぐシーンでは、馬を始めその内臓もフェイクである。
・ひたすら喘ぎ、苦しむ“ヒュー・グラス”のL.ディカプリオは本来菜食主義者だが、A.レッドクラウド演じる“ヒクク”と知り合うシーンでバイソンの肝臓を生で食した。この“ヒュー・グラス”と対照的な心持でいかにもアクが強い存在感を示すT.ハーディの“ジョン・フィッツジェラルド”だが、当初はS.ペンが演じる予定だった(スケジュールの都合がつかなかった為実現しなかったらしい)。
・鑑賞日:2017年3月6日(月)