「いぶし銀のような良い作品だった」縁 The Bride of Izumo マンボー星人さんの映画レビュー(感想・評価)
いぶし銀のような良い作品だった
撮影監督のクリストファー・ドイルといえば映画通の私としては「恋する惑星」の映像が(トニー・レオンの名演技とともに)鮮烈な印象として残っている。あの映像は、まさに「香港」だった。
今回は「まさにこれは出雲だ」という映像を見せてくれた。
脚本もなかなか良い。謎の人物の消息を追いかけるというのがストーリーの中核であり(おおげさかもしれないが)謎解きとサスペンスの要素もある。
また出雲に住む人々の郷土への思い、今に息づく信仰心、伝統文化の継承とは何か、親子とは何か、夫婦の絆とは、過疎化に抵抗する地方びとの意地など、多くの要素をさりげなく詰め込んだ作品であり、生きてきた自分の人生の意味も振りかえさせるような、しみじみと考えさせてくれるストーリーとなっている。
出雲大社の位置づけも、現代は島根地方以外ではほとんど学校で教わらないであろうが、神話をもとにさりげなく解説されている。(出雲大社の神様は「大国主神(おおくにぬしのかみ)」ということくらいは島根出身でなくても知ってほしいものだ)
「出雲の国ゆずり」の神話は日本の古代を象徴する実に深く美しい話であると思っている。猜疑心の強い現代人はこの物語に国を明け渡した怨念を見る。しかし私は神々に守られ神話に生きた古代の日本人の美しい心情、神々となって郷土を守りたいという深い信仰心を感じてやまない。
神事と芸能が一体化した神楽も力強く美しい。
この映画で以前の名作「おくりびと」を思い出した。物言わぬ親子の再会。だが「おくりびと」よりも良い余韻が残った作品であった。物言わぬ者どうしでも心で会話する。その深い余韻を感じた。
また映画のタイトルとなった「縁(えにし)」。主人公の飯塚真紀は出雲大社のお守りを職場の同僚にお土産として手渡す。このお守りと一緒に渡されたのは、人との出会いを大切に受け止めようという「縁」の気持ちではなかったかと、ふと思った。