「オチナシのフランス映画にあって、珍しく謎解きの要素がストーリーにメリハリ」パリ3区の遺産相続人 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
オチナシのフランス映画にあって、珍しく謎解きの要素がストーリーにメリハリ
本作は、ニューヨークからやって来た主人公の男が経験するカルチャーギャップとパリならではの素敵な恋の物語です。
「ヴィアジェ」というフランス独特の不動産売買制度をこの映画で初めて知った。先ずはここを押さえておかないと、阿部寛のように「なんのこっちゃ!」とドラマの世界に入れません。
「ヴィアジェ」とは、売り主は売却した不動産に死ぬまで住む権利があり、買い手は代金として、毎月一定の金額を年金として売り主に支払う制度です。売り主が物件を無償で取得できます。なので早く亡くなれば、買い手は安価でその不動産を手に入れることができ、長生きすれば、いつまでも払い続けなければならない。まるで人の命を賭けるような制度なんですね。
疎遠だった父を亡くしたマティアス(ケビン・クライン)は、パリの高級住宅相続のためニューヨークからやって来ました。一文なしの彼は、高く売れることを期待しますが、そこには老婦人マティルド(マギー・スミス)が娘のクロエ(クリスティン・スコット・トーマス)と住んでいたのです。しかもヴィアジェ契約であるため、毎月2400ユーロ(約32万円)を払わなければならないことになっていたのでした。
マティアスは、超然としたマティルドに戸惑い、敵意を見せるクロエと反発しあいます。しかし、マティアスの父とマティルドの意外な関係が明らかになり、3人の心の距離が次第に近くなる。反発していたクロエとも親密になるものの、父が残した秘密が、ふたりの関係に重くのしかかります。
テーマは仏文化と格闘する米国人であり、家族関係の見つめ直しです。元が舞台劇だけに場面転換が少なく、舞台はもっぱらアパルトマン。どうしても3人の会話が中心になるため、俳優の演技力が大きなカギを握ることになってきます。それでも、主な登場人物を演じる3人が絶妙のハーモニーを紡ぎ出します。マティアスが借金しかないという負け犬設定なのに、クラインが演じると余裕が感じられ、物語に温かみとおかしみが加わりました。
ヤマナシ、オチナシのフランス映画にあって、後半父の残した秘密を巡る謎解きの要素がストーリーにメリハリを付けてくれました。そこに主人公の恋の結末も絡んで、ちゃんと落としどころを付けてくれたのです。
エンドロールにも、この物語の顛末が語られるので、お席をたたられるように最後までご覧ください。