「過去の罪の代償は、戦慄の贈り物」ザ・ギフト 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
過去の罪の代償は、戦慄の贈り物
学生時代の同級生と再会したら…?
それがきっかけで度々会うようになったり、贈り物をされるようになったら…?
人の縁は大事にしたいが、もしそれがエスカレートしていったら…?
一見ストーカー・サスペンスのように思えて、過去の愚行とそれによって人生を狂わされた心の闇…。
誰の身にも起こり得そうな恐怖。すでに犯してしまった過ちかもしれない…。
サイモンとロビンの夫妻はサイモンの仕事に伴い、サイモンの故郷の町へ。
サイモンは仕事で重要ポストを約束され、ロビンも在宅ワークは順調。越してきた家は豪邸。誰もが羨む人生の成功者。
買い物先で一人の男と会う。サイモンの同級生というゴードン。
再会と引っ越しを祝ってゴードンから贈り物。そのお礼として、ゴードンを夕食に招く。が、サイモンは何処か不快な感じ…。
その後ゴードンは何度か訪れたり、また贈り物をするが、それが次第に過剰になっていき…。
この手の話の場合、“同級生”と言う相手と会うが、覚えナシ。その正体は…となるが、サイモンとゴードンは同級生である事に間違いはない。
ここでポイントなのは、“同級生”であって“旧友”ではない。特別親しい関係っはなかった。
なのにゴードンは親しげに接してくる。
違和感ならまだしも、サイモンは不快感を露にする。妻にはもう会うな、ゴードンにはもう家に来るなとまで。
過去に何かあった事はすぐ察し付く。例えばサイモンが何か弱みを握られ、ゴードンがそれを脅しに近付いてきた…とか。
だが、どうもそうじゃない。二人の性格を見てればこれまた自ずと。
不審な点はあるが、ちょっと内向的・不器用そうで悪い奴には見えないゴードン。
一方のサイモンは傲慢な言動がちらつく。ゴードンの学生時代のあだ名“ブキミなゴードン”を今もからかい笑ったり。
二人の学生時代のパワーバランスが如実に。
それが明かされていくのが、妻ロビンの視点なのが巧み。見る我々もロビンと一緒になって二人の過去に何があったか知りたくなる。
ロビンはゴードンに対して寛容。好感も持っている。
が、徐々にゴードンに不審を抱く。影に怯える。同級生の美しい妻に近付くストーカー…?
二人の過去を調べる。ここは夫の故郷の町。身内や他にも同級生が今も住んでいる小さな町。
何かあったのなら誰かしら知っている。
ある事件があった…。
昔、見知らぬ人物から性的虐待を受けたというゴードン。
それを助けたのが、サイモンともう一人の同級生。
ならばゴードンにとってサイモンは恩人だが、そうなっているだけで事実は違う。
性的虐待は受けていない。そう嘘を言いふらし、度重なるいじめを…。
いじめられていたゴードン。いじめていたサイモン。
またその嘘のせいでゴードンの父親が殺人未遂を…。
サイモンのいじめで心に傷を負い、人生を狂わされたゴードン。
それを知ったロビンはどう思ったか。愛していた夫は、一人の人生を破滅させたいじめっこだった…。
いじめは悪質で愚かな行為であって、法的な犯罪や罪に問えないのが問題。
昔は悪かったね。そんなたった一言で帳消し。
やった側は昔の子供じみた悪戯。
が、やられた側からすれば…。一生忘れない。
特に思春期にそんな心的外傷を受けたらその後の人格形成に影響する。
それに、人はそう易々と変われるのか…?
ロビンに説得されて、サイモンはゴードンに謝罪を。が、ゴードンは拒否。カッとなったサイモンは…。
人はそう易々と変わらない。いじめっこはいじめっこ。クズ野郎はクズ野郎。それは今も。
仕事での重要ポストを祝して同僚らと自宅パーティー。
そこへ、石が投げ込まれる。
ゴードンかと思ったが、別の男。サイモンのライバル同僚。
サイモンの嘘の密告によって、ポストも仕事も奪われた、と…。
サイモンは否定するが、決定的な証拠。
今もサイモンによるいじめ被害者が続く。
いじめっこはいじめっこ。変わらない。
窮地に陥ったサイモン。その時、妊娠中のロビンが産気付く。
かつて流産した事もあり、二人にとっては待望の我が子。
サイモンがこれから真っ当に生きるターニングポイントと言えよう。
そこに、ゴードンから“戦慄の贈り物”が…。
強面のジョエル・エドガートンがゴードンで、穏やかそうなジェイソン・ベイトマンがサイモン。一見逆にも思えるが、これが絶妙。
エドガートンは不審さと悲しみを抑えた演技で滲ませ、ベイトマンの次第に暴露されていくムカつき!
見る側視点になってくれるレベッカ・ホールの存在、演技、そして美貌。
明確な殺人や事件は起きない。あくまで人間関係の綻び、危うさ。
それが最も恐ろしくもあり、見事な緊迫感溢れるサスペンスに。
エドガートンは本作で監督デビュー(オリジナル脚本も)。登場人物は少ないが、3人のメイン人物をしっかり描き、深い問題提起も含めたエンタメ・サスペンスの手腕に唸らされる。
ゴードンも決して全くの否が無い訳ではない。
他人の家に不法侵入、ストーカー気味の行為、鯉の大量死や犬失踪にも絡んでいるのは間違いない。それに盗聴・盗撮…。
最後の“贈り物”。CDとDVD。
CDには自分を蔑んだサイモンの声。
そしてDVDには…。
もし、これが“本当”だったら戦慄…。
恐ろし過ぎる“贈り物”。ゴードンもヤベーキチ○イ野郎。
もし違っていても、疑惑は晴れない。一生。我が子の顔を見る度に…。
永遠に悔やみ続けるだろう。自分は何て愚かな事をしてしまったんだ、と。
これをはっきりさせないまま曖昧にした終幕が絶妙であり、戦慄であり、暫く忘れ得ない。
ゴードンの仕返しが本当だったら、これは犯罪や罪でもある。
が、彼だけが悪いのか…?
陥れた原因は…?
自業自得。いじめも、罪だ。