「かっこ悪い取っ組み合いの喧嘩が、妙にリアルを感じる。」ディストラクション・ベイビーズ 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
かっこ悪い取っ組み合いの喧嘩が、妙にリアルを感じる。
映画の雰囲気は「共喰い」のようだ。
地方の町に残る因習やら、知らず知らずに受け継がれてきたDNAみたいなものによって、眠っていた血が覚醒してしまったように弾けだす。止めようのないくらいの激しさで。瓶底の栓が不意に抜けて、何かがどばどばっとこぼれ落ちてしまう感覚に似た、絶望とともに。
タイラの台詞が極端に少ないのが新鮮で、そこにいるのはもしかしたら人ではなくて、人の皮を被った猿なのかもしれない。しかも、厄介なことにわずかながも知恵がある。人に飼われながらもなつくことなく、凶暴性だけが肥大してしまった動物園の猿のように。サングラスを気に入るところや、からかってくる奴に威嚇するところなんざ、まさに猿そのものだ。
ナナが農夫を痛めつけてきたとみるや、「どうやった?」と何度も聞く。面白かっただろ?とでも言いたげに。そんなタイラこそ、自分より強い奴を見つけては食って掛かって、勝つまで食らいつく。何度でも挑み、勝つまで夢中になる。痛みさえ感じやしない。
それでいて、嫌悪感を持てないのは、いつだって拳ひとつで喧嘩をするからだろうか。武器なんて卑怯なものは使わない。いや、武器を使うことを知らないだけか?それはそれで、恐ろしいことになるが。
だいたい、ユウヤやナナのほうこそゲスな奴らで、そのせいでタイラの喧嘩に潔ささえ感じてしまう。
ラスト、喧嘩祭りに舞い戻ったタイラ。血が騒ぐのか。このあと、どうなってしまうのか。そうハラハラしているところに、弦をこする様に野太い音を響かせるギター。このまま延長戦へ、って感じが上手い。
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