「喧嘩から放たれるメッセージ」ディストラクション・ベイビーズ 森泉涼一さんの映画レビュー(感想・評価)
喧嘩から放たれるメッセージ
殴る、蹴る、罵声・・・。卑劣極まりない若気の衝動が大半を占める本作はこれらの行動を肯定してはいけないが、全てを否定として向かい合わずにこの狂気と欲望に満ちた若者に対して大人たちがどう対応していくかという強いメッセージ性が込められている。
柳楽優弥演じる芦原泰良はアウトローな風貌、セリフも最大限削り必要なワードしか発さない。この男はモデルになった人物が実際に存在し、彼の若いころの生き様に興味をもったという真利子哲也監督が本作をつくるきっかけになったという。
喧嘩をして終わればまた喧嘩。実際に街で現れたら大問題極まりない男もスクリーンにうつると面白い。冒頭から決して喧嘩が強いという雰囲気が漂ってこないのも異質だと感じるが、こいつは狂ってると思わせてくれるのが這いつくばってでも粘る根性。のび太がジャイアンに殴られ倒れても泣きながらしがみつくシーンを思い浮かべるとイメージしやすいかもしれないが、のび太との大きな違いはしがみつきながらも不敵な笑みを垣間見せるところ。当事者は恐怖しか感じないだろうが、第三者目線だとこれが面白くもあり、かわいくも見えてくる不思議な現象は柳楽の演技力と真利子監督の繊細かつ大胆な演出なしでは起こりえないことである。
舞台となった愛媛県松山市には伝統的な祭りがある。この祭りは神輿をぶつけ合いながらそのお膝元で大人たちが秩序ある争いをするという伝統行事だが、これらと泰良はじめ若者の暴走を対比させ現代社会に強いメッセージを放っている。要は大人としての良識な行動を若い時代から心掛け手遅れになる前に自身で考えろということだ。
このテーマであるのなら泰良の周囲にいる北原裕也(菅田将暉)や那奈(小松菜奈)の抑えきれない欲望と暴走も映画として肯定できる。そして、泰良の弟である村上虹郎演じる芦原将太も危ない橋を渡り切ってしまった兄への憧れと自身の正義感の狭間で揺れる感情がなんとも生々しいうえに、でんでん演じる親代わりの存在も彼らを抑止する重要なポジションである。
若手の枠を超えた実力派の気鋭俳優たちが集結し、鬼才真利子哲也監督と「桐島、部活やめるってよ」の喜安浩平が共同脚本として参加した本作は至極の秀作。若者の暴走による事件が加速していく今の時代だからこそ観るべき一本である。そして日本映画の評価が疑われている現在、人気小説や漫画の原作に頼り駄作ばかり公開している場合ではなく、こういう映画のバックアップに全力を注ぐべき。