「その「永い言い訳」は、誰に対しての言い訳か。」永い言い訳 にゃろめさんの映画レビュー(感想・評価)
その「永い言い訳」は、誰に対しての言い訳か。
大切な人を失った時の感情を、どうやって言葉で表せば良いのか?
そんなことはできるはずがない。のだ。
なまじっか、言葉の世界で生きてきた幸夫は、
(おそらく)感情を言葉に変換するクセがついているので
妻を失った喪失感を自分でも分からない。
なので涙が出ない。
いや、俺は確かにダメな男でダメな夫だ。
でも、妻を愛してなかったわけじゃない。
ちょっと待ってくれ、言い訳させてくれ。
その永い言い訳に要した時間が、奇妙な4人生活の1年間。
対する陽一君は、言葉で表すのが苦手なので、
感情がストレートな行動に表れる。
まだ幼いあかりちゃんは、純粋なので感情で表現する。
一方、長男の真平君は、幸夫に似て言葉が先に出るタイプ。
しかし、それは父陽一に対する反抗でもある。
科学の先生は感情を表に出すのも言葉にするのも苦手なタイプ。
その永い言い訳の途中で強烈な一言を目にする。
「もう愛してない これっぽっちも」
まだオレの言い訳の途中なんだから、先に答えだすなよ!
ここで幸夫の感情は切れてしまう。
陽一君が事故を起こすまでは。
この映画に出る人で、
愛されていない人は誰もいない。
あ、一人だけいた。不倫相手の編集者。
「もう愛してない これっぽっちも」は未送信。
職業とはいえ愛していない人の髪を切るわけがない。
しかも何年にも渡って。
「わたしは衣笠っていう苗字が好きだし」なんて言わない。
もちろん不倫には気づいている。だから未送信。
ラスト前、やっと永い言い訳を言い終わったあと
あかりちゃんにもらった写真に、自分は映っていない。
そこで初めて涙する。
冒頭の妻のセリフ
「悪いけど、後片付けはよろしくね。」
ラスト
1年かけてようやく幸夫は“後片付け”をし、前向きに生きていきます。