「不倫の悔い。子供のいない悔い。」永い言い訳 Takehiroさんの映画レビュー(感想・評価)
不倫の悔い。子供のいない悔い。
『永い言い訳』(2016)
Amazonプライムにて。まず、原作を書けば直木賞候補になり、それを脚本、映画監督までするという、西川美和という人物の凄さがある。早稲田大学の文学を出て美人。才色兼備と言うわけである。しかも師匠筋のような人物が、タイムリーにカンヌ映画祭で最高の賞を得た是枝裕和らしい。内容は重い。小説家(本木雅弘)が妻(深津絵里)の旅行中に不倫しているところに、妻が事故死したという電話が入る。愛人が黒木華が演じているのもイメージと違ったキャスティングで、清純派女優にセックスシーンをさせるほど淫らなのかも知れない。だが、愛人は妻の死後に悔恨を含めて小説家宅を訪問したのに、小説家は肉体を求めてしまい、セックス中に冷めた愛人は、小説家を蔑み出て行く。小説家の妻と一緒に旅行に出ていた女性も事故死し、その主人(竹原ピストル)が小説家と心情を共有しようと小説家と、二人の子供を連れて食事する。その際に娘がアナフィラキシーショックとなり、小説家と兄の男の子が、病院に行った父娘を待つ間に会話する。その前のシーンになるが、花見で小説家に妻の死を小説にすればと言われて小説家は酔って怒って編集者(池松壮亮)を蹴飛ばしたりして、仲間に制止されるが、編集者はここ数年のあなたの小説は魂がこもってもいないからだというシーンがあり、小説家と編集者の仕事に対しての本気が表されるところも印象的だ。小説家は二人の幼い兄妹の家に行き、家事も苦手で運転手か何かで世話できない父親の代わりを買って出た。ここら辺でこの映画のテーマは一体何かとも思えたりする。妻が事故死した時に不倫していた罪悪がテーマなのかと思っていると、共に妻を亡くした男の子供たちを世話する話になっている。兄妹が健気なのである。小説家も変に純真である。本木のコミカルな面をみせる。ちょっとしたエピソードが実にリアルに描かれている。思えば、子供がいなかった事故死した妻と小説家の関係が暗に描かれているのかも知れない。子供がいたら良い親に小説家はなっていただろうに。編集者は若いのに、年配の小説家に対して正面から向き合い、きついことも言うが、優秀な編集者ということなのだろう。難しい会話をする。どちらも実は純真なのだ。子供を残された父親と子供がいなかった父親が話し合う。子供がいなかったら楽かなと、子供がいて良かったなというのと、子供たち2人を2人の男やもめが眩しそうに眺めている。そして、幻想のおシーンで、亡き妻が子供たちと遊んでいるシーンが小説家に浮かび、悲しい表情をする。この映画は複雑な見せ方だが、妻を亡くした悲しさと子供のいることの大切さを映しているようだ。小説家はお兄ちゃんのほうに「弱いから泣くんじゃないんだよ。強い人は大事な人を亡くした時にちゃんと逃げずに悲しんで泣くの」と小説家は言う。編集者に先生は泣きもしていないじゃないですかと言われていたのだった。これも深い設定だと思うが、妻の遺していたスマホをみると、「もう愛していない」と下書きされていて、小rr説家は怒ってスマホを壊してしまう。不倫していた癖にである。(本当に死んだ妻は愛してなかったのかどうか)小説家は、テレビ番組に妻を供養するドキュメンタリー番組に出るが、演出家にまるでドラマのように指図されてゆく。それには従うが、スマホの文面をみてしまっていたために、撮影中に妻をなじり怒鳴ってしまう。後ろから抱えて支える編集者(マネージャーか)。だが、それを含めて本心のように作った番組になっているようだった。
学芸員の先生が話に入ってくるが、山田真歩という女優も、『花子とアン』で知名度が上がったのかも知れないが、『レンタネコ』でもみたが、味が出ていた。調べないと誰だか認知出来ていないくらいの段階ではあったが。だが、小説家は異性として嫉妬したわけではなく、学芸員と運転手の父親と子供たちのいる関係に嫉妬してしまい、酔いも手伝って、お姉ちゃんの誕生会で嫌みを言って荒れてしまう。そして二人の男は子供のいるいないで口論してしまう。嫉妬というより、小説家の本心もあったのだろう。「こんな遺伝子が増えて良いかと思ったりするんだよ」「俺は違うと思うよなっちゃん(亡き小説家の妻)は子供が欲しかったと思うよ」「何がわかるのよ」子供の前で本音中の本音というのか、問いかけをしてしまう。「頼むから自分の尺度だけで幸せを言わないでよ。
僕の子供なんて欲しくないですよ。あの人は。で、欲しくないまま死にました。アハハ、何の話。これ。」これは、学芸員と運転手が子供たちをこれからみるという事に対して小説家が嫉妬したということなのだろう。小説家は帰った。運転手はしばらくして思いついたように急いで追いかける。「お似合いだよ。よろしく言ってよ」「ゆきちゃん(運転手の亡き妻)忘れるには一番の薬だよ」と言ったときに、運転手は怒り、小説家の襟首をつかむ。「ボクは夏子が死んだとき、ほかの女と寝ていたんだよ。夏子が凍り付いた海に沈んでいくとき、セックスしてたの。君とは全然違うんだよ」と小説家は逆ギレして、運転手の家庭から去る。飲み屋で荒れる小説家。汚めのトイレで酔いつぶれて座り込む本木雅弘のシーンもすごい。子供番組が流れ、兄妹との交流を思い出す小説家。この後がよくわからないのだが、学芸員とうまく家庭生活が行くのかと思っていたら、なぜか怠惰に寝込む運転手。塾を休むようになったお兄ちゃん。こわもてだがむしろ良い人の運転手が、どうして
親子の調整がずれてしまったか。このお兄ちゃんの父に対する反抗が私には深すぎるのかよくわからなかった。そして運転手は深夜のトラックで事故を起こしてしまう。病院から連絡が入り、あわてて病院に向かう小説家。小説家に電話してボクお父さんに最低な事言っちゃった。というお兄ちゃん。その後も深いセリフが続く。「自分を思ってくれる人を簡単に手放しちゃいけない。みくびったり陥れたりはいけない。そうしないとボクみたいになってしまう。簡単に離れるわけはないと思ってた。離れるときは一瞬だ。だから君らは離れないで握ってて」と小説家はお兄ちゃんに言う。
父の怪我は比較的軽く、息子を連れてトラックで去り、息子は小説家をトラックから後ろを振り向いてみる。手を振る小説家。一人電車に乗る小説家。真剣にメモを書き始める。泣きながら走り書きする中には、「人生は他者だ」など書かれている。背景に流れるのは『オンブラマイフ』という曲か。なぜかさみしいソプラノか。少し時間が経過して、息子は中学、娘は小学の1年生。小説家の新刊出版の祝賀会。息子と娘が壇上でお祝いの言葉を述べる。編集者と並ぶ小説家。学芸員と並ぶトラック運転手。運転手と小説家も少し遠くから微笑み合う。みんなにこやかに踊ったり飲んだりしている。父親と中学生もボクシングの真似事で楽しむ。そんな中で小学生から渡された、死んだ妻2人と子供たちとトラック運転手の写真を真剣に見つめる小説家。部屋にそれを飾る。ヘアデザイナーであった妻の愛したハサミを見つめる小説家。それら遺品を箱に詰めた。