「永い言い訳、短い本心」永い言い訳 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
永い言い訳、短い本心
西川美和が自身の小説を映画化。
バス事故で妻を亡くしたのに悲しめない男を描く。
孤独、空虚、苦悩…心情に深く迫るさすがの演出、語り口。
今回も一つのテーマから人間を掘り下げ、見応えのある人間ドラマに仕上げている。
著名な作家としてTVにも出ている幸夫。
彼がかなりの最低人間。
性格は卑屈。上から目線で相手を見下す時あり。
妻が事故に遭った時、愛人を抱いていた。
心有らずの葬式の弔辞。TVを意識してか泣いたフリ。
喪中に豪遊したり、また愛人を抱く。
花見の席で大荒れ。
…などなどだが、何より涙を流せなかった。
でも何か画に書いたような最低の人間って感じじゃなく、悲しみや喪失といったものを何をどう表していいのか分からないという感じがした。
そんなある時出会ったのが、妻の親友の遺族。
トラック運転手の陽一と、幼い兄妹の真平と灯。
陽一は幸夫とは逆で、妻を失った悲しみを隠さない。遺族への説明会では怒りをぶちまけ、幸夫の前で何度も何度も涙する。
ひょんな事から幸夫は、トラック運転手として家を空ける事の多い陽一に変わって、幼い兄妹の面倒を見る事になるのだが…、
何故かここがちょっと面白い。
慣れない“主夫”に悪戦苦闘。
家事、送り迎え、子守り、頭のいい真平の勉強を見てあげたり…。
不思議なもんで、序盤で心空っぽに見えた幸夫が優しいおじちゃんに見える。
この時どんな意図でやってたのかそれは分からないが(次作の執筆の為、何らかの罪滅ぼし、本当に手助け)、でも子供たちと接してた時の顔はまんざら嘘でもないだろう。
(何だか素のもっくんを見てるようだったけど)
妻を失った悲しみの温度差に違いはあれど、同じ境遇の残された者同士が、また穏やかな日常と心の拠り所を見つける。
…それも束の間、
ある日幸夫は、妻の遺品のスマホに残されてたある文を見て衝撃を受ける。
陽一にはちょっとした出会いが。
幸夫が陽一たちと親交を深めたのは、彼らを通して悲しむという事を知る為もあったかもしれない。
が、陽一はドン引くくらいのイジイジ、イジイジ。
長男の真平は幸夫と同じく葬式で泣けず、複雑な内面の持ち主。
そこに、突然の疎外感。
皆と囲んだ夕食の席で酔っ払った勢いで本心とも言える事をぶちまけ、幸夫の孤独や苦悩はさらに深まっていく…。
突破口となったのは、真平。
真平が父親に抵抗を感じていたのはすぐ分かったが、ある時父にキツい本心をぶちまける。
その直後、陽一は事故に遭う。
幸夫と真平は陽一を迎えに行く中で…
真平は、自分なのだ。自分と同じなのだ。
母親を失って、悲しいのは悲しい。しかし、その悲しいという感情をどう表していいか思い悩んでいる。
かと言って、父みたいになりたくない。それを恥じている。
毅然としているが、実は今にも壊れそうで、脆く、弱く、繊細。
つい周囲にぶちまけてしまう…。
真平と対した時、幸夫は最もらしい事を言う。
それは自分にも通じる事、自分に言っていたのではないか。
この幼い自分が、自分のようにならないように…。
本木雅弘がさすがの名演技!
嫌悪感、滑稽さ、憐れみ、それでいての人間味…それらを的確に体現。
やっぱり巧いね~。
本作を見るまで、竹原ピストルをほとんど知らなかったが、パワフルな存在感。
時々危なっかしさを醸し出しつつ、愛嬌もたっぷり。
本業はミュージシャンらしく、どうでもいい事だけどTVドラマ「バイプレイヤーズ」のエンディングソングが絶品!
何つっても、二人の子役が巧い!
本木雅弘も竹原ピストルも巧いが、真平役の藤田健心くんの巧さは随一!
灯役の白鳥玉季ちゃんは素というか、ドキュメンタリーを見てるようなナチュラルさ。
短い出演ながら妻の存在をずっと感じさせる深津絵里、池松壮亮のいつもながらの好助演。ところで…、黒木華ってああいうラブシーンNGとか言ってなかったっけ…??
人の悲しみはそれぞれ。
幸夫の苦悩。
陽一の素直さ。
真平の葛藤。
それぞれがそれぞれの悲しみの中で、喪失からの再生を見出だす。
西川作品の中でも、ポジティブなメッセージを感じた。
泣いたから悲しんでいる、泣いてないから悲しんでないなんて、言いがかりだ。
自分は母が死んだ時、泣かなかった。
元々泣くような性格ではないのだけれども、ああいう時涙というものを見せたくないのだ。
勿論、微塵も悲しんでない訳なんかではない。
今もふとした時母の事を思い出すし、自分なりにずっと母の死を悼んでいる。
“永い言い訳”の後の“短い本心”こそ、グッと心に響いた。
近大氏🙇…これは泣けた映画でした😭
「バイプレイヤーズ」観てましたよ…シーズン1のエンディングでピストル本人が出演…聞き入る5人と共に毎週あの歌聴いてました。
ピストルのカバーする「アメイジング・グレイス」、「ファイト」(中島みゆき)、グッと心に響きます。…ご存知でしたらスミマセン🙇
それよりも…近大氏のこのレビューこそ、私は映画よりグッと心に響きました…それは、私にも同様な心音があるからです🙏