「妻の気分で。」永い言い訳 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
妻の気分で。
さすが西川監督、今回もかなり鋭い人間描写。宣伝では
ダメ男代表が幸夫となっているけど、もう一人の陽一も
ダメ父に変わりない。この竹原ピストルって誰だ~?と
思ったら、あのCMの「よー、そこのわけーの!」の人か。
顔だけでも怖い。かなりの風情を醸している。突然妻を
失った同じ立場の二人ではあるが、片や妻の不在に愛人
呼んで不倫中、片や妻任せで家事育児がろくにできない
トラック運転手、失ったものの大きさを感じさせるのは
まだ幼子を二人抱えた陽一の方だ。幸夫はこの強引な友
に対して償いの様な優しさを持ちかけ、子供達の面倒を
かって出る。家族を愛せない男が子供を愛せるのか?と
不安に感じるも、そこは子持ちのモックン、子供の扱い
がどう見たって巧いのだ。幸夫というろくでなしを演じ
ていてもパパぶりがつい出てしまっている、この面白さ。
言い訳がましい手助けが板についてきて、幸夫もこれで
救われるのか…と見せて今度は亡き妻からの辛辣な伝言。
あーやっぱりね、冒頭で出掛けに戻った妻の視線が夫の
浮気を見抜いていたことを証明している。妻はバス事故
に遭うまでずーっと外の景色を見ているのだが、あの時
どんな気持ちだったんだろう…と考えると切なくなった。
長年連れ添えば色々あるだろう。子供がいれば子育ても
大変だったろう。妻の死をいつまでも嘆き悲しむ陽一を
諭しながら泣けない自分を恥じる幸夫。私にはどちらも
同じように見えた。完璧な人間なんている筈がないのだ。
相手に酷いことをしてそれが取り返しのつかない段階に
なって、初めて自分の愚かさに気付くのが人間。バカで
どうしようもない自分を受け入れ自省し、いつか歩ける
勇気を見い出すのが人間。二人の奮闘ぶりを見ていると
亡き妻たちが笑ってるんじゃないかと思えた。あんなに
バカでドジな亭主たちが懸命にその後を生きて子供達を
見守っている姿に、天国の妻気分で泣けて仕方なかった。
(全てのシーンが辛辣で毒気満載で愛に満ち溢れている)