「ゲスを愛でる。」永い言い訳 だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
ゲスを愛でる。
幸夫くんは、見事なゲスであった。
大事なのは自分の面子。妻の気持ちなんざ、お構いなし。自分の言いたい事だけ言って、聴きたくない事は言葉を遮る。
そうして、妻を傷つけておきながら、僕の気持ちは君なんかには分からないだろうとのたまう。
妻によるヘアカットシーンで、もう幸夫くんを嫌いになった。こんな男、いや。
しかしその歪んだ自意識に少しの同族嫌悪も感じ、なんとも居心地が悪く思った。
妻の外出後すぐに、愛人を自宅に迎え入れ、情事にいそしんていたら、妻が死んだ。
後味の悪い突然の別れを、幸夫くんがどう消化するか、という物語である。
西川美和は、「ゆれる」以降ずっと追ってきた監督で、
つまらないことはないはず、と分かってはいた。
が、予想以上に「永い言い訳」はすごかった。
「永い言い訳」は今まで描いてきた、
隠しておきたい本音・事実の暴露によるうわべの崩壊から、
その後の再生へと踏み込んでおり、
化けの皮が剥がされたあとの、みっともない人間を癒し、
先に進むまでをやさしく寄り添ってくれた。
あんなにいやだと思っていた幸夫を、しまいにはいとおしく思うようになった。
しんちゃんとの電車旅でなぜだか涙がこぼれた。
竹原ピストルが、もうそのまんまピストルで、すごい存在感と説得力があった。すごかった。
私は、お母さんを失って泣けなかったお兄ちゃんの気持ちが分かる。
明日からのご飯の支度、妹のお迎え、自分の生活がどれだけ変わるかの不安。
頭のいい子だから、そういう具体的な心配が、いくつも浮かんで、
「お母さんにもう会えなくて寂しい」まで辿り着かなかったのだろう。
泣いているだけのお父さんを情けなく思い、そのくせ、お父さんに情が薄いような
言い方をされ、すごく傷ついたよね。わかる。わかるよ。
死んだのがどうしてお母さんなんだろう、お父さんのほうがよかったのに。
君の立場にいて、そう思うことを誰が責められようか。
陽一くんには悪いけど、しんちゃんがかわいそうよ。あなたが悲しみにくれている間、しんちゃんは子供らしさを奪われたまま。
池松壮亮、黒木華、山田真歩もよかった。
子供達可愛かった。
そして夏子の存在感ですよ。なんて澄んだ目力の亡霊でしょうか。
深津絵里が凄いです。
もちろんもっくんも。
私としては2016年の邦画の一番です。ダントツです。
アカデミー賞取ってほしいなー。
でも多分ゴジラか君の名は。なんやろな。