劇場公開日 2016年10月14日

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「ダメダメダメダメ男に愛の手を」永い言い訳 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ダメダメダメダメ男に愛の手を

2016年10月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

過去の西川監督作品はいずれも人間描写に唸らされてきました。
そして、物語の決着を観客に委ねる結末にも。
さて・・・

衣笠幸夫(本木雅弘)は、津村啓の筆名で文学賞を受賞し、いまではテレビのクイズ番組にも出演して、人気がある作家だ。
ただし、編集者からは、最近の作品は惰性だと揶揄されている。
そんな彼の妻・夏子(深津絵里)が、高校時代からの親友とのバス旅行の途中、バス事故で死んでしまう。
こともあろうか、幸夫が他の女性と不倫している最中に・・・

といったところから始まる物語は、その後、妻の親友の遺された夫・大宮陽一(竹原ピストル)一家と知り合って心が変転していく、といった展開になる。

幸夫と陽一は、何から何まで正反対。

幸夫は、インテリで世間に対して斜に構え、自己顕示欲が強く、僻み根性ばかり。
妻への愛には冷めているが、妻は自分を愛してくれるのが当然だと思っている。

陽一は無学で直情的で、突然妻を喪った哀しみを時折噴出させる。

映画はこのふたりを対比して描いていくが、常に幸夫の視線である。
そして、幸夫が何か言う度に、幸夫のダメ男ぶりが際立っていく。
それは、彼の関心が自分ばかりにあり、他者と向き合ってこなかったせいだ。

妻の突然の喪失でも、感情が揺さぶられないほどに・・・

いやぁ、ホントにダメダメダメダメ男なんだなぁ、これが。
ま、ちょっと身に覚えもあったりするので、観ている方としては、いたたまれないのだけれども。

そんなある日、亡き妻からの手ひどいしっぺ返しを食らう。
妻のスマホの、幸夫宛ての下書きメール。
「もう愛していない、ひとかけらも」

いやぁ、残酷だぁ、西川監督。

しかし、その後、西川監督は、このダメダメダメダメ男に優しい手を差し伸べる。
斜に構え、妻も含めて他人と向き合おうとしなかった幸夫に、「人生は、他者だ」と気づかせてあげるのだ。

ありゃりゃ、なんだか西川監督、優しくなったねぇ。
それとも、監督は、この手のダメダメ男が好きなのかしらん。

いつもながら深い人間描写に唸らされましたが、物語の結末を観客に委ねることはしなかった。
さて、今後の西川作品、どのように変化していくか、とても楽しみである。

りゃんひさ