「ご近所付き合いにご注意を」クリーピー 偽りの隣人 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ご近所付き合いにご注意を
黒沢清監督久々の本格サイコ・スリラー。「リアル」ってのもあった気がするけど、とにかく久々の本格サイコ・スリラー。
確かに面白かった。(面白かったって表現が適切じゃないかもしれないけど、色んな意味での“面白かった”)
単なるサスペンス・ミステリーに非ず、身近に潜む人の心の闇に深く入り込む。
この後味の悪さと言ったら!
作品はかなり賛否両論。それも分かる。
後味の悪さはいいんだけど、何かこう、煮え切らないモヤモヤが残りこびりついたままと言うか…。
その嫌な感じも、タイトル“クリーピー”の意味を狙ったのかも。
まず、キャストから。特に強烈印象を残したこの二人。
言うまでもなく一人目は、香川照之。
最初会った時は感じ悪く、でも次会ったら愛想良く、かと思ったらまた急に感じ悪くなり、次会ったらまたまた愛想良く…コロコロコロコロ変わって、もう見てるこっちが疲れてくる。
掴み所の無さに翻弄されていると、身の毛のよだつ本性に…!
その怪演は笑えてもくるくらい。
末恐ろしさを感じさせたのは、“娘”役の藤野涼子。末恐ろしさとは、役柄の事じゃなく、その才能に。
6年前の未解決のままの一家失踪事件。
主人公夫婦が越してきた家の隣人。
一見何の関連も無さそうだが、しかし…
少しずつ少しずつその二つに繋がりが見えてくる前半は、抑えた不穏を煽る演出でサスペンス・ミステリーとして面白い。
突然!それが急変するのは、中盤過ぎてから。
何、あの部屋…? ここ、日本だよ…?
何、この唐突の展開…? どうしたの…?
そこからは、狂気の世界へようこそ。
皆、狂ってる。正気であった者も狂った。
極めつけは、“家族ドライブ”。
狂気はもはやシュール!
正攻法のサスペンス・ミステリーを期待したら肩透かし。多分これが低評価意見の大多数。
そもそも本作は、事件性のある話を描こうとはしていないのだ。
人の心の闇。
人はいとも簡単にその深みに迷いこむ。
そしてその誘いは、すぐ傍に。
アナタの家の隣で、隣人が。