「誰もが持つ複数の顔」マーシュランド masakingさんの映画レビュー(感想・評価)
誰もが持つ複数の顔
冒頭の俯瞰カットが湿地だと気付くのに時間が掛かった。人間の細胞と血流に見えたのである。小さな点が明滅して移動するのが見えた時、それが鳥で、初めて湿地を上空から撮影したものだと分かった。この湿地にうごめく陰鬱な人間の情念を表現しようとする監督の意図を深読みしたくなった。
「今日から民主主義国家になりました」と言われて、すぐに宗旨替えをしたものの、細胞レベルまで浸透した既得権益や権威主義思想が、一朝一夕で変わるものではないことは、戦後70年余を経て今もなおその亡霊にしがみつく人間の多さに辟易している我が国の現状を見ても明らかである。
その権化とも言えるベテラン刑事と、新たな時代の象徴である若い刑事のコンビが、事件の真相に迫るにつれ、互いの忌み嫌っていた部分に引き寄せられるように異なる一面を見せる終盤が圧巻であった。
欲望と理性の狭間で、人は様々な表情を見せる。どちらも人間の真実であるが故に、つくづくその罪深さに口を噤んでしまう。
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